「グリフィスの傷」千早茜著

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「グリフィスの傷」千早茜著

 傷を題材にした10編の短編集。冒頭の「竜舌蘭」はさまざまな苦情に対応するデパートの受付係の“私”が主人公。

 私は高校時代、同級生から無視をされるといういじめを受けた過去を持つ。黙殺され、私のまわりだけが無音だった。

 ある日、私が遅刻すれすれで教室に飛び込むと、全員が私を見ていた。私の片脚から血が滴りおちていたのだ。あれだけ徹底して無視しておきながら、たかが流血くらいで私を見る。私は呆れた。

 私の傷は、通学途中にある民家の多肉植物「竜舌蘭」の棘に触れ、皮膚を切り裂いたことが原因だった。

 だが、私はうれしかったのだ。私の痛みを暴力的なまでにはっきり示してくれたことに……。

 ほかに、同じマンションに住む犬嫌いのひきつれ顔の男性に自分の心の傷を見破られた女性が取った行動を描く「この世のすべての」、ガラスについた無数の傷を意味する表題作の「グリフィスの傷」では、かつてネットに誹謗中傷を書き込んだことのあるリストカットを繰り返す元アイドルと再会し、傷の理由を聞かされる私の物語など。

 今は治った体の傷が語るのは、目には見えない心の傷である。ほんの出来心が人を傷つけ人生を狂わせること、そして癒えるとは何かをやわらかな筆致で読者に問いかける。 (集英社 1760円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

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