「ハヤブサを盗んだ男」ジョシュア・ハマー著、屋代通子訳

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「ハヤブサを盗んだ男」ジョシュア・ハマー著、屋代通子訳

 野生の鳥、それも猛禽類の卵を巣から盗み出す凄腕の卵泥棒がいる。ジェフリー・レンドラム。彼は高い木や崖に登り、ときにはヘリコプターから宙吊りになった状態で巣に手を伸ばす。命がけで手に入れた卵を生きたまま届ける相手は、鷹狩りに目がないアラブの富豪たち。この卵泥棒に興味を持った国際ジャーナリストが、彼の足跡を追ったノンフィクション。

 レンドラムは1961年、旧英国植民地の北ローデシア(現ザンビア)で生まれた。自然が大好きで、周りの生き物、とりわけ鳥に興味を持った。父親とともに鳥類学者のフィールドワークのボランティアとなり、高い能力を発揮した。一方で、野鳥の卵のコレクターだった父親は息子に巣荒らしの手ほどきをした。鳥類研究者と卵泥棒。レンドラムは少年期から両方の可能性を秘めていたようだが、選んだのは泥棒のほうだった。

 猛禽類、中でもハヤブサは中東の鷹狩り愛好家を引きつけてやまない。速く、強く、野性味あふれる鳥の王者を手に入れるためなら法を犯し、莫大な金を出す。レンドラムは彼らの飽くなき欲望に応えるために世界を股にかけた。ジンバブエの国立公園、パタゴニアの火山、北極圏のツンドラ地帯……。

 この希代の卵泥棒を追うのはアンディ・マクウィリアム。英国の野生生物犯罪捜査官で、絶滅危惧種の密輸撲滅を目指していた。そのマクウィリアムが、いつしかレンドラムに尊敬にも似た複雑な思いを抱くようになる。高度な専門知識、周到な準備、鮮やかな手口。何よりも、傷つきやすい卵を生きたまま途方もない距離を運び切る。こんな泥棒はほかにいなかった。

 実際に起きた野生生物犯罪のノンフィクションだが、冒険小説のようにスリリング。泥棒と捜査官の攻防戦を軸に、鳥に魅せられた人々がつくり出す闇の世界をのぞかせてくれる。 (紀伊國屋書店 2750円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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