「ルポ超高級老人ホーム」 甚野博則著

公開日: 更新日:

「ルポ超高級老人ホーム」 甚野博則著

 数億円もの入居金を支払って超富裕層が晩年を過ごす超高級老人ホームとは、いったいどんなところなのか。元「週刊文春」記者のノンフィクションライターがその実態をルポした。

 超高級老人ホームの代表格として知られる「サクラビア成城」や「聖路加レジデンス」をはじめ、海の眺望を誇る「中銀ライフケア熱海第三伊豆山」、関西セレブが集う「エレガーノ西宮」など全国約10施設を訪ね、入居者、介護スタッフ、施設の運営者にインタビュー。大金を払って終の棲家を手に入れた人たちの多様な姿が見えてきた。

 入居者の多くは元大企業のトップや大学教授など、社会的な成功者たち。利便性や将来の安心を確保するために、元気なうちに入居した人も多い。老人ホームから出勤する経営者、なじみの店に飲みに出かける元大企業幹部、自由気ままに海外旅行を楽しむ夫婦、施設運営に関して積極的に発言する理事会メンバー……。競争社会の勝者たちだから、みな一家言持っている。過去の栄光を自慢げに語る者もいれば、マウンティングし合う者もいる。

「めんどくさい老人」と言ってしまえばそれまでだが、超一流施設で働くスタッフの次の言葉が印象深い。「仕事を通じて日々薫陶を受けています。仕事冥利につきます」。功なり名を遂げた人生の大先輩からじかに帝王学を学んでいるというのだ。これこそ超高級施設の証しかもしれない。

 とはいえ、別の人生を生きてきた者同士が同じ屋根の下で暮らすのは容易ではない。ある入居者は友達ができて孤独から解放されたと喜び、別の入居者は人間関係を煩わしいと感じる。超高級老人ホームとて桃源郷ではない。幸福な終の棲家になるかどうかは当事者の人生観次第なのだろう。

 著者は悪徳と噂のある施設への潜入取材も試みている。現役スタッフから提供された情報通り、張りぼての高級感の内側にお寒い実態が隠れていた。超高級は無理でも、将来老人ホームへの入居を考えている人には大いに参考になる一冊。

(ダイヤモンド社 1760円)


【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  2. 2

    帝釈天から始まる「TOKYOタクシー」は「男はつらいよ」ファンが歩んだ歴史をかみしめる作品

  3. 3

    西武にとってエース今井達也の放出は「厄介払い」の側面も…損得勘定的にも今オフが“売り時”だった

  4. 4

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  5. 5

    立川志らく、山里亮太、杉村太蔵が…テレビが高市首相をこぞってヨイショするイヤ~な時代

  1. 6

    (5)「名古屋-品川」開通は2040年代半ば…「大阪延伸」は今世紀絶望

  2. 7

    森七菜の出演作にハズレなし! 岡山天音「ひらやすみ」で《ダサめの美大生》好演&評価爆上がり

  3. 8

    小池都知事が定例会見で“都税収奪”にブチ切れた! 高市官邸とのバトル激化必至

  4. 9

    西武の生え抜き源田&外崎が崖っぷち…FA補強連発で「出番減少は避けられない」の見立て

  5. 10

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ