「ここでは言葉が死を招く」嶋中潤著

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「ここでは言葉が死を招く」嶋中潤著

 函館市にある医療刑務所分院に勤める医師・金子由衣は、収容されている受刑者を診ている。最近は高齢者ばかりか外国人受刑者を診ることも増え、コミュニケーションの取り方に悩む日々だ。今、由衣が担当するのは肺動脈性肺高血圧症のインド人女性サリタ、卵巣がんのベトナム人女性ラン、宗教上の理由で輸血を拒否するアメリカ人男性ジョセフの3人。由衣は懸命に言葉を探るが、意思疎通は思うようにいかない。

 恋人へのストーカー行為で収容されたサリタの出所が近くなったある日、由衣はインド出身の大学講師に通訳を頼む。体は良くなったものの、ふさぎこみ多く語らないサリタを心配してのことだったが結局、理由はわからなかった。数日後、サリタは出所。ところが通用門を出た瞬間、銃で撃たれる事件が起きる。一体誰が--。由衣はサリタの周辺を探り出すが、事件の渦に巻き込まれていく。

 一般にはうかがい知ることのない医療刑務所と、そこで起きた事件を描くミステリー。美しさゆえに性暴力にさらされ続けたラン、通訳者の必要性を無駄金と考える官僚など、外国人を取り巻く偏見や利権をも物語の中に浮かび上がらせていく。

 ラストに明かされるサリタが襲撃された理由に、多様性の意味を改めて考えさせられる。

(講談社 1980円)

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