「ことばの番人」髙橋秀実著

公開日: 更新日:

「ことばの番人」髙橋秀実著

 ネット全盛の時代、誤字脱字まみれで事実関係も危うい言葉が世に氾濫している。なぜ、そんなものばかりが目に付くのかといえば、そこには客観的視点を持つ他者が存在せず、書き手しかいないからだ。とすれば、実は世に優秀な書き手など存在せず、優れた校正者がいるだけなのではないか。本書は、そんな確信を抱いた著者が校正という緻密な世界に迫るノンフィクションだ。

 著者は、伝説の校正者や校閲専門会社社長、日本語漢字辞典の編纂者、医薬品メーカーの校正担当者らへの取材を通して彼らの思考をたどる。そして日本語自体が、中国から輸入した漢字を複雑に使う言語だからこそ、校正が必須であるという事実に行きつく。本書がユニークなのは校正という作業が行われる場を、本や新聞などのメディアに限定せず、官報巻末に掲載されている正誤表や、日本国憲法における危うい日本語にも言及している点だ。

 最終章では、私たちの人体内で行われているDNAの複製の間違いのたびに行われている校正作業にまで言及。ひとつひとつの照合を地道に繰り返す、校正から見えてくる世界が奥深い。

(集英社インターナショナル 1980円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「マラソン」と「大腸がん」に関連あり? ランナー100人への調査結果が全米で大きな波紋

  2. 2

    巨人FA捕手・甲斐拓也の“存在価値”はますます減少…同僚岸田が侍J選出でジリ貧状態

  3. 3

    高市総裁「首相指名」に漂う不安…自民党内は“厭戦ムード”も燻る火種、飛び交う「怪文書」の中身

  4. 4

    秋季関東大会で横浜高と再戦浮上、27連勝を止めた「今春の1勝」は半年を経てどう作用するか

  5. 5

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  1. 6

    高市自民、公明からの三行半で早くも本性露呈…「やられたら秒でやり返す」「イキらなきゃ負け」のオラオラ体質

  2. 7

    出来たとしても高市政権は短命…誰も見通せない激動政局の行方を徹底分析(前編)

  3. 8

    佐川宣寿元理財局長のメール開示「遺族と話し合う」…森友文書で加藤財務大臣が明言

  4. 9

    進次郎氏落選もダメージなし? 妻・滝川クリステルが目指した「幸せ家庭生活」と耳にしていた夫の実力

  5. 10

    侍J井端監督 強化試合メンバー発表の裏に「3つの深謀遠慮」…巨人・岡本和真が当選のまさか