「タブー・トラック」羽田圭介著

公開日: 更新日:

「タブー・トラック」羽田圭介著

 俳優の橘響梧が、ノンアルコールビールのCM撮影をしているシーンから物語は始まる。どこからも批判を受けない表現を求められるなか、仕事終わりに彼がこっそり立ち寄るのはマネジャーにも秘密の一台のキャンピングカー。防音性を高める内装を施したその車の中で、響梧はビールを飲みながらタブーワードを大声で叫んでストレスを発散するのが日課になっていた。

 小さな火種から大炎上して消えていく同業者を見るにつけ、落ち着かない気持ちになっていた響梧だったが、ある事件の現場に居合わせたことで、なんとか均衡を保っていた心が激しく揺れ始める……。

 響梧のほかに登場するのは、瞑想やウオーキング、食事管理のもと厳格に自らを整える脚本家の井刈蒔、不届き者をネットの書き込みで叩くことで上司のパワハラの鬱憤を晴らす日々を送っている会社員の中松優一、優一の娘で大学入試前ながらすでに動画配信で収入を得ている高校生の七海ら。

 タブーだらけの世の中で、心にフラストレーションを抱えた人間が行きつく未来の姿に震撼させられる。 (講談社 2530円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度不倫の山本モナ 年商40億円社長と結婚&引退の次は…

  2. 2

    日本ハムFA松本剛の「巨人入り」に2つの重圧…来季V逸なら“戦犯”リスクまで背負うことに

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    「ばけばけ」好演で株を上げた北川景子と“結婚”で失速気味の「ブギウギ」趣里の明暗クッキリ

  5. 5

    「存立危機事態」めぐり「台湾有事」に言及で日中対立激化…引くに引けない高市首相の自業自得

  1. 6

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  2. 7

    (2)「アルコールより危険な飲み物」とは…日本人の30%が脂肪肝

  3. 8

    西武・今井達也「今オフは何が何でもメジャーへ」…シーズン中からダダ洩れていた本音

  4. 9

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  5. 10

    高市政権の物価高対策はパクリばかりで“オリジナル”ゼロ…今さら「デフレ脱却宣言目指す」のア然