「龍ノ眼」麻宮好著

公開日: 更新日:

「龍ノ眼」麻宮好著

 隠密同心の長澤多門は、まるで翡翠のような美しい砥石の出どころを探るため小日向藩石場村へ赴いた。御公儀直轄の砥窪で採掘され闇取引されているのではないか、と奉行所が懸念したためだ。

 着任早々、長澤は若く美しい男や「ここは胡乱な場所だよ」とつぶやく女・加恵、面妖な幼い兄弟らと出会い、言い知れぬ村の不思議を予感する。

 砥改人に扮する長澤はやがて村の子どもたちから村人の信仰「おりゅうさま」の存在を聞かされる。さらに、おりゅうさまの裏は禁足地になっていること、ただし産婆のタケ婆は入ることを許されていること、男は25歳で長寿の祝いをしたこと、口の利けぬ少年がいることなど、奇妙な風習が耳に入ってきた。

 そんな折、「こいつがせっかく生まれた子どもを殺した」とタケ婆に向かって叫んでいた女が死に、長澤は村ぐるみの罪業を疑い出す--。

 砥石で潤う豊かな村を舞台に禁忌の掟に翻弄される村人たちを描く長編時代小説。村長の息子に嫁いだ加恵の物語も挟み込まれ、読み進めるうちに村を覆う暗い影が明らかになっていく。なぜ子どもは男ばかりなのか、身寄りのない女ばかりを嫁にするのか。命への切望から、より豊かに生きるという欲望が生み出した愚かさと悲しみがキリリと胸に迫る傑作。

(祥伝社 1980円)

【連載】木曜日は夜ふかし本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高画質は必要ない? 民放各社が撤退検討と報じられた「BS4K」はなぜ失敗したのですか?

  2. 2

    「二股不倫」永野芽郁の“第3の男”か? 坂口健太郎の業界評…さらに「別の男」が出てくる可能性は

  3. 3

    気温50度の灼熱キャンプなのに「寒い」…中村武志さんは「死ぬかもしれん」と言った 

  4. 4

    U18日本代表がパナマ撃破で決勝進出!やっぱり横浜高はスゴかった

  5. 5

    坂口健太郎に永野芽郁との「過去の交際」発覚…“好感度俳優”イメージダウン避けられず

  1. 6

    大手家電量販店の創業家がトップに君臨する功罪…ビック、ノジマに続きヨドバシも下請法違反

  2. 7

    板野友美からますます遠ざかる“野球選手の良妻”イメージ…豪華自宅とセレブ妻ぶり猛烈アピール

  3. 8

    日本ハム・レイエスはどれだけ打っても「メジャー復帰絶望」のワケ

  4. 9

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  5. 10

    自民党総裁選の“本命”小泉進次郎氏に「不出馬説」が流れた背景