30年後に脚光を浴びた兄弟デュオの実話

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「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」

 2期目のトランプ政権発足でまたもポピュリズムが時代のバズワードになっている。この言葉、「大衆煽動」の意味はあくまで一部。文脈次第で「民衆本位」から「大衆迎合」まで含意は広い。

 今週末封切りの「ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた」はまさにポピュリズム映画の典型だろう。

 田舎の農場で育った若者が独学で曲作りを覚え、兄貴とふたりでレコードを自主制作するが世間に見向きもされぬまま30年。それがネットの時代になって突然見いだされ、本人も知らぬままバズる。そこで再デビューしたものの本人の意気込みとは裏腹に……という名もなき庶民のポピュリスト物語。と思ったらドニー&ジョー・エマーソンという兄弟デュオの実話なのだそうだ。確かにあまりにけなげな庶民物語は“実話”という裏打ちがないといまどきは成り立ちにくいのだろう。

 主演のケイシー・アフレックと父親役のボー・ブリッジズがともに兄弟俳優の片われというトリビアも妙味だが、トランプイズムを支える社会基盤の一端にも通じる話であると同時に、少し前まではいかにもリベラル好みのヒューマンストーリーだったという点を忘れないようにしたい。トランプイズムは保守主義ではなく、リベラリズムの破綻と挫折の裂け目から芽を吹いた異形の自己憎悪なのだ。

 吉村英夫著「『男はつらいよ』、もう一つのルーツ」(大月書店 2860円)は、寅さん映画を日本型のポピュリスト物語と捉える個性的な映画論。

 個性的というのは職人的技量で評価されても商業性の点で軽視された山田洋次と寅さん映画をフランス的なポピュリスムで評価する独自のこだわりゆえ。市井の小さき民の哀歓を描く文芸映画から家城巳代治、小津安二郎へと論をつなぐ。「東京物語」の脚本書きと小津の競輪熱が同時期だったという小論が面白い。 <生井英考>

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