トランプは誰からハッタリ商売と暴言術を教わったのか?

公開日: 更新日:

「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」

 2025年最初の1作は「アプレンティス ドナルド・トランプの創り方」。お察しの通り次期(現時点では)大統領の若いころの話だが、これを初めに持ってくるのは正直なところためらう。

 だってそうでしょう。132年ぶりの“返り咲き大統領”の鼻息もあって今回のトランプはさらに猛々しい。その波乱を前にねえ、と思うわけだ。

 それはさておき「アプレンティス」はかつてトランプが人気を得た深夜テレビの題名。例の「おまえはクビだ!」であざとく名を売った番組だが、英語では見習弟子のこと。本作はこっちに引っかけてある。因業だが小物の不動産屋だったトランプが、誰からハッタリ商売と暴言術を教わったかという話である。

 その顛末を一通り事実に沿ってそれらしく物語にしてある。主要な人物は実名、要所に見慣れた何かも出てくる。いや、けなしているわけではない。この手の話は「それらしさ」が肝心なのだ。

 まだ若いドナルドがハゲを気にしてしきりに頭を触る芝居などはご愛嬌だが、1970年代という時代の空気感が意外にうまくつかまえてある。

 70年代は失意の時代といわれるが、半面、今日を予言する居直りと強欲が芽吹いた時代でもあった。現にトランプはこのころ「再開発」という名目で行政につけ込む術を知り、トランプタワーの建設を足場に成り上がってゆく。

 ジェントリフィケーション(優美化)は美術ギャラリーや流行のクラブなどを小道具に、廃れた都市部を商業的に活性化させる手法。まさに70年代の産物だ。ニール・スミス著「ジェントリフィケーションと報復都市」(ミネルヴァ書房 6380円)は、この手の開発が一見平和でハッピーな街づくりの陰に残忍な復讐鬼の顔を秘めているかを論じた都市理論。現代日本にも当てはまる指摘が多数あって青ざめる思いがする。

 <生井英考>

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    上白石萌音・萌歌姉妹が鹿児島から上京して高校受験した実践学園の偏差値 大学はそれぞれ別へ

  2. 2

    大谷 28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」とは?

  3. 3

    学力偏差値とは別? 東京理科大が「MARCH」ではなく「早慶上智」グループに括られるワケ

  4. 4

    ドジャース大谷の投手復帰またまた先送り…ローテ右腕がIL入り、いよいよ打線から外せなくなった

  5. 5

    よく聞かれる「中学野球は硬式と軟式のどちらがいい?」に僕の見解は…

  1. 6

    備蓄米報道でも連日登場…スーパー「アキダイ」はなぜテレビ局から重宝される?

  2. 7

    進次郎農相の「500%」発言で抗議殺到、ついに声明文…“元凶”にされたコメ卸「木徳神糧」の困惑

  3. 8

    長嶋茂雄さんが立大時代の一茂氏にブチ切れた珍エピソード「なんだこれは。学生の分際で」

  4. 9

    (3)アニマル長嶋のホームスチール事件が広岡達朗「バッドぶん投げ&職務放棄」を引き起こした

  5. 10

    米スーパータワマンの構造的欠陥で新たな訴訟…開発グループ株20%を持つ三井物産が受ける余波