葉真中顕(作家)

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1月×日 ふらりと立ち寄った古本屋で、同じ著者の同じ小説が3冊並んでいるのを見かけた。それ自体は珍しいことではないが、よく見ると3冊とも刊行している版元が違った。表紙の装丁も同じで版元だけが違う。著作権の切れた古典を複数の版元が出版することはあっても、装丁まで一緒にはならない。そもそもこれは最近の小説だ。なぜ別々の版元が同じ本を出版しているのか。文芸業界は摩訶不思議である。

1月×日 そんな摩訶不思議な文芸業界内で今話題沸騰の1冊、村山由佳著「PRIZE」(文藝春秋 2200円)を読む。直木賞がどうしても欲しいベストセラー作家と、その周りで右往左往する編集者たちの物語。業界の内幕が赤裸々に描かれており、話も滅法界もなく面白い。話題になるのも納得だ。夢中で読了し本を閉じたあと、ふと考えたのは、現実の世界では、文学賞も作家と編集者の関わりも、この作品で描かれているような熱量を失いつつあるということだ。この10年ほどでも文学賞の存在感はずいぶんと目減りした。作家と編集者が公私混同気味の密な付き合いをするケースも減っている。寂しい気もするが、権威主義が弱まり、ハラスメントが減るのなら、熱が冷めるのも悪いことばかりでもないとも思う。本作はそう遠くない将来、昔の文芸業界はこんなにアツかったのかと、歴史小説のように読まれるのではないか。

1月×日 そうは言っても、直木賞はお祭りである。候補になりつつも落選した友人の荻堂顕の残念会に。賞は逃したが彼の候補作「飽くなき地景」(KADOKAWA 2145円)は濃密な描写でぐいぐいと読者を引っ張ってゆく傑作だ。3次会は徹夜麻雀。主役の荻堂が負けていた。他人事ながら、泣きっ面に蜂である。

2月×日 などと笑っていたら罰があたったのか、冷蔵庫の中に放置してあった牛乳を飲んだら傷んでいたようでお腹をくだしてしまった。

【連載】週間読書日記

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