羽鳥好之(作家)

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1月×日 トランプ米大統領が早々に暴言妄言をまき散らしている。この男の頭の中は一体どうなっているのか、改めて考え込んでしまうのだが、参考になる格好の書があったなあとツン読の山をかき分ける。船橋洋一著「宿命の子 上下」(文藝春秋 上2475円 下2585円)は、第2次安倍政権の時代を徹底検証する目的で、政権中枢にあった多数の政治家や官僚の肉声を精緻に組み上げていった圧巻のクロニクルである。ことに安倍氏に対し、退陣後19回に及ぶインタビューを行っており、当然、トランプやプーチン、習近平といった強面相手の会談の模様が事細かに証言、採録されている。都合1200頁にも及ぶ大部の著、買ったまま手つかずだったのを、早々、トランプとの電撃会談の場面から読み始めた。これが実に生々しくて面白い。一つ言えることは、トランプさんは安倍さんが心底好きだった、2人は本当に仲良くゴルフに興じ、そこから親しい関係を築いていった、それは疑いようのないことに思われた。それがどう日本の国益につながったかは研究者がこの労作から分析すべきことで、私はただ、この稀有な友情がとても羨ましく感じられた。頭の中は謎のままだったが。

1月×日 ゆえあって久しぶりに太宰治の「人間失格」(新潮社 308円)を読む。名作揃いの新潮文庫の中、累計部数でトップを争うのがこの本と大漱石の「こころ」だということ、知ってました? 精神マッチョが好まれた時代にはウケなかった太宰だが、多くの若者が不安を抱える現代では、人気№1の文豪に。精読して改めて思った。太宰はラストの一行が書きたくてこれを書いた。

1月×日 昨今、出版社は学者による新書を多数刊行するけれど、たいていは素人にはとても読みにくい。その点、本郷和人の著書は安心して手に取ることができる。「宗教の日本史」(扶桑社 990円)も、仏教の到来から明治に至るまでの変遷がすんなり頭に入ってくる。これは凡才のなせる業ではない。新書ってそれが大事だと思いませんか?

【連載】週間読書日記

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