「怖い日本語」下重暁子著/ワニブックス(選者:中川淳一郎)

公開日: 更新日:

世にあふれる「責任回避の言葉」から読み解く日本人論

「怖い日本語」下重暁子著

 元NHKアナウンサーで文筆家の著者が、世にはびこる違和感のある言葉を提示し、その気持ち悪さを解説するとともに、日本社会の主体性のなさを批判する。話はテレビの「食リポ」の言葉の貧弱さから、店員の「のほうになります」話法や、官僚がつくる責任回避の言葉、さらには批判されないための過剰な言い訳の言葉などが次々と紹介される。

 この本に同意できる読者は「24時間テレビ」に偽善を感じたり、東日本大震災の後の「絆」という言葉が乱用され安っぽくなったことに辟易した人々だろう。まぁ、あまのじゃく向けの本である。私もそうであるが。

 官僚用語で紹介されたのが「もしこれによってご不快な思いをされた方がいたとしたらお詫びしたい」だ。著者はこう続ける。

〈本当にこのセリフは許せない。(中略)これで「謝罪した」という事実はつくったつもりなのでしょう。「不快な思いをされた人がいたとしたら」とは、「不快な思いをする人がいるとは思っていなかったし、今も思っていない」ということで、しかも「でも私は思いやりのある人間なので意図していなかった結果についても謝ってあげますよ」と偉そうに付け加えているのです〉

 他にも「床屋」「八百屋」「肉屋」が侮蔑的な用語とされ、メディアでは使われないことや、アメリカでは「メリークリスマス」はキリスト教徒以外を不快にさせないため「ハッピーホリデーズ」と言うことなどの自主規制を示す。

 さらには、言葉だけにとどまらず、テレビがモザイクだらけになっている現状にも苦言を呈する。プライバシーへの配慮と、広告主への配慮なのだが、とある著名人の学生時代の集合写真で40人中39人にモザイクがかかっている様子や、渦中の人物の家を訪問するにあたり、道路や住所の貼られた電柱、他の家などにはモザイクを入れ、直撃の際は、インターホンとリポーターの指だけが写るさまへの違和感を表明。要するに「ちゃんと取材してますよ」のアピールをしているというのだ。

 スポンサー企業とは別の会社のポスターが店内に貼ってあったりしたらこれもモザイク。著者はこれで広告主が怒るとは思わないと述べる。あくまでも局の側が「怒られるのでは」と先回りして画面を汚くしているのである。

 とにもかくにも臆病で誰からも嫌われたくない、波風立てたくない、目立ちたくない、責任を取りたくない、誰かから指示を待ちたい、という日本人の気質と「日本語」を合わせた日本人論となっている。 ★★半

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