「グリーン・ビーチディエップ奇襲作戦」ジェイムズ・リーソー著 清水政二訳 大木毅監修・解説

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「グリーン・ビーチディエップ奇襲作戦」ジェイムズ・リーソー著 清水政二訳 大木毅監修・解説

 第2次世界大戦下の1942年8月19日。イギリス海峡に面した北フランスの港湾都市ディエップで、ナチスドイツに対する奇襲作戦が行われた。参加したのはカナダ軍、イギリス軍を中心とする約6000人。上陸地点はコードネームで「グリーン・ビーチ」と呼ばれた。ノルマンディー上陸作戦の2年前のことである。この作戦には、スパイ映画も顔負けの秘話が隠されていた。戦後明らかになった記録や証言を基に奇襲の全貌を再構築した迫真のノンフィクション。

 イギリスの歴史学者で小説家でもある著者は、奇襲に参加した1人の男を主役に据えた。彼の名はジャック・ニッセンサール(後にニッセンと改名)。ユダヤ系ポーランド人で、長身、金髪、強靱。イギリス空軍の基地でレーダー専門家として働いていた。

 優秀な技術者のジャックは司令部から極秘の命令を受け、兵士に交じって海峡を渡った。彼に与えられた任務はドイツ軍のレーダー網「フレイヤ」の基地を襲い、その性能を確かめること。情報戦を左右する極めて重要な任務だったので、10人ほどのカナダ兵がジャックの護衛についた。つわもの揃いの護衛兵は命がけでジャックを守る。ただし、機密保持のために「彼が敵の手に渡りそうなときは、彼を殺せ」と命じられていた。もし護衛に殺されるとしたら、なんと皮肉な運命だろう。

 ジャックと護衛兵は、お互いの本名も素性も明かさず、あだ名で呼び合いながら絆を深めていく。彼らが目指す敵のレーダー・ステーションは、海辺にそそり立つ崖の上にあった。

 8月19日未明に始まった奇襲作戦はおよそ10時間続いた。連合軍側は多くの死傷者と捕虜を出し、後に大失敗と評された。ジャックたちは暑熱の中で砲弾を浴びながら戦争の現場を駆けずり回る。ジャックは任務を遂行できるのだろうか。戦場の長い過酷な1日が生々しく描かれている。

 実はこの作品は半世紀前に書かれ、日本でも刊行されたが、新たな解説を加えて復刊された。古びるどころか、小説のように面白く、知られざる戦史として読み応えがある。

(KADOKAWA 3740円)

【連載】ノンフィクションが面白い

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