「FPV」横田徹著

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「FPV」横田徹著

 2022年2月、ロシアによるウクライナへの一方的な侵攻で始まった戦争は、これまでの戦争における戦車や戦闘機などと同じように、技術革新を戦争にもたらした。

 それがFPV(FIRST PERSON VIEW=一人称視点)ドローンだ。FPVとは、ドローンに搭載されたカメラの映像をリアルタイムに受信して自ら現場にいるかのような感覚で遠隔操縦する技術のことだ。

 本書は、報道カメラマンの著者が、戦争が始まった直後の5月から今年3月まで7回の従軍取材を行い、現代の戦争を「自分の目(FPV)」で撮り下ろしたフォトルポルタージュ。

 22年2月下旬、ロシアの機甲部隊がキーウに迫る中、父親の車で前線に近づいた15歳の少年が、市販のドローンを飛ばして、機甲部隊の座標をウクライナ軍が開発した通報アプリを使って砲兵隊に報告。ロシア軍の撃退に一役買ったという。

 このように侵攻当初は、市民から市販のドローンとパイロットをかき集め創設した民間のドローン部隊が偵察に用いられ、キーウ防衛に貢献したという。

 やがて戦線には対人・対戦車用FPVドローン、爆撃ドローン、偵察・中継ドローンなどが次々と登場し、ドローンは現代戦争の覇権武器に進化したという。

 一方のロシア軍も、これまでの無線式に加え、電子妨害が通用しない光ファイバーケーブルを用いた有線式のFPVドローンまで開発し、戦線に投入している。

 そうした戦場で活躍するドローンとそれを操る兵士たちを活写。

 廃屋の一室で携帯端末やパソコンなどでFPVドローンを操作している写真は、まるで、スマホでゲームでもしているかのよう。だが、その画面の向こう側では不条理な命のやりとりが行われており、この廃屋も戦闘の最前線であることに違いはないのだ。

 ロシア軍が空爆に多用するイラン製の自爆型シャヘッドドローンは、最長2500キロの航続距離を持ち、首都キーウを射程に収める。

 小型で安価の巡航ミサイルとも呼ばれ、多いときには1日に150機がロシア領からウクライナ領に飛来してくるという。

 それらを第2次世界大戦から使われている旧式の重機関銃で迎え撃つのが第117領土防衛旅団だ。通称「シャヘッドハンター」とも呼ばれるこの旅団の戦いにも著者は密着。

 ほかにも、これまで軍歴はないが志願して戦闘に参加しているという45歳のケンさんら日本人義勇兵や、かつてチェチェン紛争で傭兵として活躍し今も現役の軍人として戦いに参加する父オレグと、日本文化を愛しロリータファッションに身をつつむ14歳の娘ミラーナの物語、さらに、戦場で働く兵士や戦渦に巻き込まれ傷を負った少年などのポートレート、そして戦火によって破壊された街並みまで。

 不条理な戦争の現実を克明に伝える。

(笠倉出版社 3300円)

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