「チベットの迷宮ポタラ宮殿」永橋和雄写真/田中公明解説

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「チベットの迷宮ポタラ宮殿」永橋和雄写真/田中公明解説

 チベット仏教の聖地とチベット政権の中枢という聖俗の権威を象徴する建物ポタラ宮殿の写真集。

 宮殿は、中国チベット自治区、標高3700メートルに位置するラサにあり、13層、高さ117メートル、東西・南北それぞれ370メートルに及ぶ壮大な建物で、その美しさは白鷺が羽を広げた姿に例えられる。

 部屋は地下室なども含め600ほどあるといわれるがその正確な数は分からず、現ダライ・ラマ14世自身の言葉によると、「ポタラそのものは単なる宮殿ではなく、その内部には政府官庁、たくさんの倉庫、175人が住むナムギェル僧院、数多くの礼拝堂、将来政府の上級職員になるべき若い僧侶たちの学校など実にさまざまな施設からなっている」という。

 世界遺産に登録された1994年以降、宮殿内の撮影は禁止され、2008年の暴動以降、外国人にはラサへの訪問も難しくなっているため、1980年代を中心に撮影された本書は、史料としての価値も高い。

 ページを開くと、まずはマルポリ(紅山)という丘の頂にそびえるチベット特有の巨大な垂壁を誇る壮麗な宮殿の全容を写した写真が並ぶ。朝、宮殿の周りをもやが立ち込め、幻想的な姿に浮かび上がらせる。もやの正体は、巡礼者や信者が香(サン)の芳しい匂いをたちのぼらせるために門前の2基の香炉に投げ入れた杜松や松柏の枝葉が燃えて出す白煙だという。

 その量のすごさからも、巡礼者たちのあつい信仰がうかがえる。

 別の写真では、マルポリのふもとに広がる池に逆さ富士ならぬ「逆さポタラ宮殿」が映し出される。

 標高が高い土地だけに空気は澄み、空は宇宙を感じさせる深い藍をたたえている。

 宮殿とその南面のふもとに広がる「ショル」と呼ばれる街区が写る作品もある。ショルには宮殿で必要な仏像を作る仏師や、仏画工などの職人たちがかつて住んでいた。

 迷宮を思わせるその街区は、世界文化遺産保護の名目で取り払われて、今は存在しないという。

 そして、カメラはいよいよ宮殿の中へと進む。

 赤宮の回廊には、ポタラ宮殿の造営に尽力した摂政サンギェーギャムツォの伝記と宮殿造営の過程が698もの場面によって描かれている。

 さらに、赤宮の本尊にあたるパクパ・ローケーシュヴァラを安置する「聖観音殿」をはじめ、ダライ・ラマ5世の霊塔をはじめとする代々のダライ・ラマの霊塔などを巡る。

 歴代のダライ・ラマが起居する白宮の御座所「東日光殿」の寝宮には、不在の主の帰りを待って、法衣が置かれている。

 チベット各地から集まった巡礼者たちは、瓶に入ったバターを灯明に捧げ、真言を唱えながら各部屋の本尊や祖師を巡る。恍惚とした表情で仏と対峙する老人の姿が印象的だ。

 チベットの歴史やダライ・ラマの転生のシステム、さらにポタラ宮殿内部の詳細について専門家の解説も添付され、今は立ち入ることのできぬポタラ宮殿を丸ごと味わえる貴重な一冊だ。

(三省堂書店/創英社 3080円)

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