「一撃必撮」島内治彦著

公開日: 更新日:

「一撃必撮」島内治彦著

 スマホを手に1億総カメラマンと化した現代、街中で観光地で、そして大自然を前に、誰もが思い思いの被写体にカメラを向ける。カメラを向けるということは、その風景が何かしら心に響いたからに違いない。

 著者が心惹かれるのは、「誰がどう見ても何の変哲もない風景」ではあるのだが、「何となく違和感があり町に溶け込んでいるようで少しだけはみ出している」風景だという。

 町のあちらこちらで遭遇したそんな不思議な場面をカメラに収めたユーモアあふれる写真集。

 読者は表紙の写真から魅了されるはず。一見すると、のどかな田園風景に見えるのだが、この写真につけられた著者のキャプションは「トラクターはJAFより早くやってくる」。

 キャプションを読んで、改めて写真をよく見ると、右側の軽トラックが道から脱輪しており、左側の田んぼから駆け付けたトラクターが、ロープでつないだ軽トラックを救出しているようだ。軽トラックの周囲では、心配して集まったのか、ただのヤジ馬なのか年配の男女が見守っている。

 愛犬を自転車の後ろの荷台のカゴにのせて、どこかに向かう人を写した写真。誰もが町中でよく見かける風景ではあるが、「最近ヨロけるので後ろには乗りたくないです」という犬の心の声を代弁したキャプションが。犬のやや不安げな表情と相まって、思わず頬がゆるむ。

 ほかにも、グラウンドで野球の練習中の小学校低学年らしき男女の写真。こちらに背を向け一列に並んで指導者からノックを受けているが、ボールが向かってきているのに、その背中に緊張感はなく、誰も捕る気配がない。添えられたキャプションは「やる気のないナインたち」。

「港の女」と題された写真の舞台は、海軍旗を掲げた軍艦が停泊中の人影がなくひっそりとした港。

 そこでワンピースを着た幼女が、岸壁のブロックにあげた片足の膝に手をついてポーズをとっている。

 黒いシャッターの車庫の前、駐車禁止を伝える三角コーンがいくつも置かれて物々しい雰囲気を醸し出しているが、そのコーンのひとつがなぜか黒いダウンジャケットを着せられている写真には「落とし主はくるかな」。

「売っている商品は少ないけれど店番の人は多い」という作品では、農産物の無人販売所が写っているのだが、販売台の上に泥棒よけだろうか、マネキンの頭が3つ載っているだけのようなシュールな作品もある。

 撮影地は表記されていないが、その多くは出身地でもある姫路であると思われ、作品のあちらこちらに姫路城もたびたび登場。

 日々を真面目に、淡々と、そして一生懸命に生きる町の人たちがのぞかせる一瞬をユーモアを込めて切り取った作品からは地元愛も伝わってくる。

(きんもくせい書房 3300円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「豊臣兄弟!」白石聖が大好評! 2026年の毎週日曜日は永野芽郁にとって“憂鬱の日”に

  2. 2

    川口春奈「食べ方が汚い」問題再燃のお気の毒…直近の動画では少しはマシに?

  3. 3

    あの人「なんか怖い」を回避する柔らかな言葉遣い

  4. 4

    自分探しで“変身”遂げたマリエに報道陣「誰だかわからない」

  5. 5

    (1)高齢者の転倒は要介護のきっかけになりやすい

  1. 6

    2度目の離婚に踏み切った吉川ひなの壮絶半生…最初の夫IZAMとは"ままごと婚"と揶揄され「宗教2世」も告白

  2. 7

    「誰が殺されてもおかしくない」ICE射殺事件への抗議デモ全米で勃発

  3. 8

    解散総選挙“前哨戦”で自民に暗雲…前橋出直し市長選で支援候補が前職小川晶氏に「ゼロ打ち」大敗の衝撃

  4. 9

    業績悪化で減収減益のニトリ 事業の新たな柱いまだ見いだせず

  5. 10

    チンピラ維新の「国保逃れ」炎上やまず“ウヤムヤ作戦”も頓挫不可避 野党が追及へ手ぐすねで包囲網