「世界最高の辞典を作った名もなき人びと」サラ・オーグルヴィ著 塩原通緒訳

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「世界最高の辞典を作った名もなき人びと」サラ・オーグルヴィ著 塩原通緒訳

 見出し語41万4825、累計用例182万7306という「オックスフォード英語大辞典(OED)」全10巻が完結したのは1928年、70年かけて完成した大事業だ。コンピューターもインターネットもない時代にこれだけの語彙、用例を拾い出すのは途方もない作業だ。それには数多くの協力者が必要で、当初数百人の篤志者が無償で古今の文献に単語と用例を「スリップ」と呼ばれる小さな紙片に記し、OED編集室に送っていた。第3代編集主幹ジェイムズ・マリーはさらに範囲を広げ世界中に向けて協力を要請したところ、英国のみならず米国、インド、アフリカなどから数多くの協力者が名乗りを上げた。その数、約3000人。

 偶然にもマリーが残した協力者の住所録を発見した著者は、この辞典の成立に携わった人たちが実際どういう人たちだったのかを突き止め、できるだけ包括的な全体像を描き出そうと探究の旅に出る。その記録が本書だ。ARCHAEOLOGIST(考古学者)からZEALOTS(熱狂者)に至る全26章には、さまざまな協力者の肖像が描かれている。中でも有名なのは映画にもなった「博士と狂人」に登場する殺人犯のウィリアム・マイナーだが、彼は生涯に6万2720枚のスリップを投稿している。マイナーは投稿数4位だが、1位から4位までいずれも精神科病院と関係があった(1人は管理者、3人は入院患者)という。そのほか、希代のポルノ収集家(彼のおかげでOEDには卑猥語も収載された)、エール大学の学長、レズビアン作家のカップル、駅のトイレで死体で見つかったコカイン中毒者等々、実に多様な人生がたどられている。

 またカール・マルクスの娘のエレノアは貧窮のために対価を求めたが、仕事が雑で拒否されたというエピソードも掘り起こされている。これまであまり扱われることのなかった辞書編纂における女性の役割に光を当てているのも本書の特徴だ。 〈狸〉

(早川書房 4950円)

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