「食権力の現代史」藤原辰史著

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「食権力の現代史」藤原辰史著

 昨年10月に停戦が発効したイスラエル・ガザ戦争だが、以降も散発的な攻撃が続きガザ地区はいまだに苛酷な状況に置かれている。本書冒頭には、戦争勃発2カ月後の2023年12月、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが「イスラエルが飢餓を戦争の武器としてガザ地区で使用している」としてイスラエル政府を非難したことが示されている。24年10月には、ガザ地区の96%にあたる200万人以上が壊滅的飢餓に直面していると報じられた。こうした非難にイスラエル政府は反発したが、かつてユダヤ人自身がナチスによる意図的な飢餓の犠牲者だった。イスラエルの行動を安易にナチスの蛮行にたとえてはならないが、飢餓を武器にするという2つの思考には多くの共通点がある、と著者は指摘する。

 さらに重要なのは、意図的に武器として飢餓を用いなくても、実需と関係ない農作物の投機、食品の大量消費、大量廃棄といったことも多大な飢餓をもたらしており、現在地球上で7億人を超える人が飢えていることだ。本書は、「食料や食料生産に必須のものを一局に集中し、それらを根拠に人間や自然を統治したり、管理したりする諸力の束」を「食権力」として、第1次大戦から現在までの現代史を、食権力の歴史、飢餓の歴史として描いている。

 まず「世界史上最大の殺人計画」と称されたナチスの「飢餓計画」の実態を幅広い資料から浮き彫りにし、続いてこの計画を詳細に分析し、戦後の国連の飢餓撲滅政策に決定的な役割を果たしたジ・カストロの業績を紹介していく。食権力の乱用はなにもナチスの専売ではない。ソ連支配下のウクライナで390万人の餓死者を出した「ホロドモール」、中華人民共和国の大躍進時代に起こった3000万~4000万人の餓死者を生んだ大飢饉等々、「見えない暴力」がいまだに世界各地で振るわれているという重い現実を突きつける。 〈狸〉

(人文書院 2970円)

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