【安楽死特区】国が自殺する権利を認め、医師が死を幇助する近未来

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 一人はラッパーとして活躍した難病の若者。一人は末期がんに苦しむ60代の男。もう一人は幼くして死亡した息子の思い出にひたる老女。描かれる人生は三者三様だ。

 チベットでボランティア活動をした経験のある章太郎がヒトリシズカに入った目的はこの安楽死制度に疑問を抱き、恋人と共に取材するためだった。章太郎は医師たちに「国は軍事費を増やしたい。だが国民皆保険制度は維持しなければならない。だから高齢者や病気で苦しむ人々を切り捨てる」と言う。だがその彼も医師との話し合いを重ねていくうちに気持ちに変化をきたしていく。

 ここに描かれた物語は決して絵空事ではない。数年前、イェール大学アシスタント・プロフェッサーの成田悠輔が「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」と発言して物議を醸した。年寄りは死んじまえというのだ。このとき世論は成田への批判に向かったが、その一方で「発言内容の全体を聞くと、納得できる部分もある」「表現は乱暴だが、見解はまとも」と彼を支持・擁護する声も上がった。

 また、国は高額療養費制度の料金改定に躍起になっている。先日、2027年夏までに自己負担の月額上限を7~38%程度引き上げることをもくろんでいると報じられた。難病患者は国家にとってお荷物と言わんばかりの動きは本作に通じるものがある。

 印象的なのは池田がスーツとネクタイで正装して死に向かう場面。杖を頼りに長い廊下を歩く男と、その後ろ姿を見送る妻。感動的な恐ろしさの漂う場面だ。章太郎はどのような最期を迎えるのか……。

 さて10年後の日本はどうなっているだろうか。社会的弱者を切り捨てることこそが「国益」につながるという風潮が高まり、安楽死が推奨される社会に変貌しているかもしれない。人の心は移ろいやすいものだ。それは昨年、参政党の「日本人ファースト」や高市早苗の「外国人が鹿を蹴っている」発言によって国民がヒステリックな排外主義に傾倒した事実からも予想できる。(配給=渋谷プロダクション)

(文=森田健司)

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