伝説の麻薬取締官・小林潔氏が語る 芸能界薬物事件の背景

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 ポール・マッカートニーや大物芸能人の逮捕にも関わり、昨年、瑞宝双光章を受章した元麻薬取締官(通称マトリ)の小林潔氏(78)。「伝説の捜査第1課長」としての経験と捜査の裏側を記したドキュメント「厚生省最後の麻薬取締官 薬物犯罪の摘発に命を懸けた男たち」(徳間書店)を出版。近年相次ぐ芸能人の薬物犯罪事件や背景について聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――近頃の芸能界の薬物事件をどう見るのか。

「長く薬物を使用している人が増えていますね。見た目では分かりにくくなっているのも一因です。覚醒剤は激ヤセしたり、気分のムラが激しくなったり、注射痕など中毒者と分かりやすかった。ですが、最近話題になっているコカインやLSDは効き目が強いものの、禁断症状が出るというわけでもないし、ある程度コントロールできる。セレブドラッグというくらい高価なのでさほど広がりを見せないけれど一定数常習者がいます」

 ――著書には壮絶な取締現場の経験が記されている。

「扱うのは人間の心だから、根本は変わらない。ただ、今はインターネットの時代だから、捜査の方法も証拠集めの方法も変わってきましたね」

「入手先を明かさなかったのは愛好家グループの存在を示唆」

 ――今月1日に伊勢谷友介被告の大麻所持逮捕の初公判があった。

「公判で入手先を明かさなかったのは、相手に“恩を売った”と同時に、愛好家のグループがいることを示唆している。格好つけた言い方も要は入手ルートを守っただけ。むしろ再犯者にありがちなタイプで改心する気はないでしょう。大麻はある程度コントロールできるので、常習化が進まない限り周囲に気づかれにくい。伊勢谷被告の場合はさらに“大通りに面したマンションの最上階、角部屋”に住んでいたことも近隣住民に怪しまれなかった理由だと思います。ここ2年ほどで大麻は葉だけでなく“大麻エキス”の押収も増えています。私も部下に『これは大麻の1.5倍の効き目があるんです』と言われて驚いた。違法薬物の態様もどんどん変わる。取り締まる側も情報を常に更新しなければなりません」

 ――なぜ大麻が薬物の入り口になりやすいのか。

「大麻は“回し飲み”をするから広がりやすい。たばこと同じで先輩や仲間にすすめられて、最初はおいしいのかどうか分からないけれど、繰り返すうちに自分から好むようになる。『1回試したら最後』というのは、たった1回で体に禁断症状が出る、というより“断れない環境に身を置いてしまう”という意味合いが強いんです。そうやって最初はコントロールできていたつもりが、いつの間にか理性で止められなくなる。自分の薬代がかさむと、新しい仲間を引きずり込んで、売りつけるようになるという構図も生まれます」

酒井法子さんは元夫の不祥事で罪を蒸し返される

 ――1日に初公判を終えた伊勢谷友介被告(44)には、大麻以外にDV疑惑も報じられた。

「大麻を吸うと高揚感と幸福感が得られる半面、クスリの効力が切れたとき、イライラしだして攻撃的になる。記憶が鮮明になり、過去に言われたことに対して急に腹が立ったりするんです。例えば恋人からクスリをやめるよう忠告され、その場で納得して終わったのに、後になって蒸し返し、相手に無性に腹が立ち、傷つけることもある。DVが事実ならば、大麻との因果関係も考えられます」

 ――計20.3グラムで約40回分、たばこの巻き紙約500枚も見つかるなど押収量も多かった。

「量が多いのは(1)安心のためのストック、(2)売るため、の2種に分かれます。小袋に入れたものもいくつも持っているとなると販売目的の可能性が強い。大袋でまとめてリビングとなると自宅使用のためのストックの可能性も高くなります。初公判で入手先を明かさなかったことからも、グループで大麻を使用していると思われます」

 ――酒井法子のように夫婦で逮捕されたケースもある。

「元夫の高相祐一は、10月に覚醒剤使用で3度目の逮捕。薬物中毒の根は深いでしょう。彼がきっかけで酒井さんも薬物の深みにはまったのではと考えられます。女性は恋人に誘われて薬物に出合うことが多く、好きな人にすすめられるからハードルが低くなり、薬物と恋心が共依存関係をつくってしまう。男側からしたら共犯にしたほうが口止めにもなるし、うるさいことも言われないし、女を使ってヒモにもなれるから都合がいいんですよ。それにしても、酒井さんは毎回、元夫の不祥事で罪を蒸し返されて仕事に支障をきたしている。これも女性に多い問題です」

“カネの切れ目が縁の切れ目”で身内がリーク

 ――なぜ芸能人の逮捕が相次ぐのか。

「芸能人は捜査上で『〇〇がクスリをやっている』というリークが入ってくるケースが多い。リークは芸能人に関係なく“カネの切れ目が縁の切れ目”ということです。それまで大盤振る舞いでおごってくれていたのに呼ばれなくなると面白くない。すると身内に売られるんです。芸能人の場合、“全盛期を過ぎた人”の逮捕が多いのはそのため。“落ち目”になって懐が寂しくなると、守ってくれていた人たちが途端に手のひら返しで足を引っ張る側に変わるんです。

 最近では、中学生が逮捕されるほど薬物は簡単に入手できてしまう。麻薬取締官は薬物を流通させている大本を捕まえて、広がらないようにすることが肝要です。芸能人も他の薬物使用者もそこは変わりません。一度の逮捕での押収量が増えているのは、大麻を広げないための現場の捜査官たちの努力の証しなんですよ」

(聞き手=岩渕景子/日刊ゲンダイ)

▽こばやし・きよし 1942年、千葉県生まれ。66年に関東信越地区麻薬取締官事務所に入所。ポール・マッカートニーら大物芸能人の逮捕の指揮を執った麻薬Gメン。03年、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部捜査第1課長として退職。昨年11月、危険業務に永年従事した功績が称えられ、瑞宝双光章を受章。近著に「厚生省最後の麻薬取締官 薬物犯罪の摘発に命を懸けた男たち」(徳間書店)がある。

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