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奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

「しっかりしてよ」励ましの言葉が認知症の人を傷つける

公開日: 更新日:

 家族が犯しやすいミスに「言葉」がある。何げなく使った言葉で、認知症の本人が人格を壊されるような傷を負うこともある。

 佐藤さんが実家に戻ってきた頃、父親はまだ足腰も元気だった。頑固とはいえ、自分の介護のために帰ってきた息子に感謝していたのだろう。自分で風呂の湯を入れたり、少しは家事を手伝うこともあった。全自動だからボタンを押すだけでいいのだが、どういうわけか風呂の栓をしないでお湯を入れてしまう。

 すると佐藤さんは、「あ~あ、余計なことをしてくれて」と、ぶつぶつ言いながら風呂を入れ直した。

 父親がトイレで大便をした後、流さずに出てきたら大変である。引きつったような顔で、「クソしたのも忘れたのか。しっかりしてくれよ、親父」と言うのである。

 家族がつい口にしてしまう言葉がある。

「また忘れて」

「さっきも言ったでしょう?」

「しっかりしてよ」

「変なこと言わないで」

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