弁護士の伊藤克之さん 発達障害と診断され「原因が明確になってホッとした」

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伊藤克之さん (弁護士/46歳)=広汎性発達障害

「広汎性発達障害」は現在では「自閉スペクトラム障害(ASD)」と言われている発達障害の一種です。人の表情から感情をくみ取るのが苦手だったり、興味や行動に強いこだわりがあったりするなどの特性が見られる脳機能障害です。

 診断されたのは2016年。でも、その兆候が表れたのはそれから12年遡った28歳の頃でした。若かったので、仕事で無理をして過労になったことに加え、その頃はプライベートでも心労が重なって、うつ状態になりました。

 病院に行くと「うつ状態」と診断されて、抗うつ剤や抗不安薬などを処方されました。あとになってみれば、このうつは発達障害の2次的症状だったのですが、そのときは精神的な病だと思って休職し、薬を飲み続けました。

 その後、それほど間を空けずに仕事復帰できたものの、なかなか本来の調子が出ず、徐々に仕事が減っていくことに思い悩むようになりました。うつの主治医に相談すると、「もしかしたら発達障害かもしれない」と言われたので、総合病院を受診したところ、「広汎性発達障害の特性がある」と診断されました。

 主治医の紹介で専門のクリニックに通い始めました。発達障害に対する薬はありませんが、2次障害であるうつ状態に効く薬を処方され、それを現在でも服用しています。

 思えば、小さい頃から友達との付き合いが苦手でした。そのせいで中学時代は周りとよくぶつかっていました。高校からは特に問題なく、法律事務所に入っても同僚との関係はうまくいっていると自分では思っていました。でも、依頼者の真意をくみ取るのが難しく、弁護士としてはやりづらかったです。

 広汎性発達障害だとわかったときは、自分が右往左往して悩んでいた原因が明確になってホッとしました。でも今度は「じゃあ、どうすればいいのか?」と考え始め、うつ状態が再度悪化してしまい、主治医から「仕事を休んだ方がいい」と助言され、再び休職しました。

■当事者会が本当に役立った

 休職中は、病院に付属しているオフィスのような場所でリワークプログラム(社会復帰支援)を経験しました。毎朝9時に行って夕方に帰るという生活に体を慣らしながら、「自分の考え方のクセとどう付き合うか」や「認知のゆがみ」を修正していくなどの勉強会を続けました。

 ただ、仕事復帰に本当に役立ったのは「東京・多摩『大人の発達障害』当事者会」です。知り合いから情報をもらって参加するようになりました。月1~2回、今でも行けるときには必ず参加しています。

 何がよかったかというと、「自分だけじゃない」と知ることができたことです。それまでは自分だけが特殊なのではないかと思い、誰にも相談もできませんでした。それが当事者会に行くと、みんなが自分と同じような悩みを持っている。それが大きな収穫でした。以来、当事者会に行くことが楽しみになりました。

 その一方で、休職していることの不安は付きまとっていました。仕事から離れたまま置いていかれてしまう不安。貯蓄を食い潰してしまう不安。弁護士として食べていけないのではないかという不安もありました。でも、「自分だけじゃない」「同じように悩んでいる人がたくさんいる」と知ったことが力になって、思い切って独立することを決断しました。2回も休職をしてしまったので、事務所にはこれ以上迷惑をかけられないと思ったのも理由のひとつです。

 現在、独立から5年目でまだまだ順調とは言えません。それでも、今までやってきた労働事件の手続きを他の弁護士と一緒にやったり、ホームページを見て相談に来てくれる近所の方の問題解決をしたりして、発達障害者の法律相談に関わっていこうと思っています。

 ただ、発達障害者の自分が言うのも何ですが、コミュニケーションが難しい人もいるので、うまくかみ合わないこともあります。どうしたらそういう人ともうまくやっていけるかと悩むことは多いです。けれど、同じ障害のある人の力になりたい気持ちは誰よりも強いと自負しています。

 発達障害者関係の事案はまだ全体の25%ぐらいです。発達障害者の特性が理解されず職場にいづらくなる人や、自覚のない発達障害者の対処に悩んでいる家族、周囲の人からの相談が多い傾向です。もっともっと多くの人に発達障害者のことを知ってもらうのが必要ですし、ここに専門の法律相談室があることを知ってほしいと思っています。

 発達障害のある人に今だから言えるのは、「自分に負荷をかけ過ぎない」ということ。そのためにも“仲間”が重要だと思います。私は当事者会で救われました。誰にとってもそうだと思いますが、悩みを共感しあえる場所があることはとても大切です。

(聞き手=松永詠美子)

▽伊藤克之(いとう・かつゆき) 1976年、神奈川県生まれ。第二東京弁護士会所属弁護士。東京大学卒業後、司法試験に合格。中堅の弁護士事務所に就職する。病気による2度の休職を経て2018年に独立し「日野アビリティ法律事務所」を開設。労働関係事案の弁護士として活躍しつつ発達障害者専門の法律相談室を設け電話相談を受け付けている。

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