脳梗塞を乗り越えたLE VELVETS佐賀龍彦さん「目覚めたら右半身がまったく動かない状態に…」

公開日: 更新日:

佐賀龍彦さん(テノール歌手/42歳)=脳梗塞

「放っておいたら破裂して、くも膜下出血を起こすかもしれないから手術しましょう」

 そう言われて手術したら、「脳梗塞」になって右半身が動かなくなってしまいました。

 始まりは数年前からひどい頭痛が月に2~3回起こるようになったことでした。脳外科を受診すると、MRI検査で「未破裂脳動脈瘤」が見つかったのです。医師の話では「将来的に確率は低いけれど破裂する可能性もあるから手術した方がいいでしょう」とのことでした。

 毎年10月にツアーが始まるので、その前にしっかりケアしておこうと思い、2021年9月初旬に3日間の予定で入院しました。所属事務所にもそのことを告げ、万全の形でツアーに入るつもりでした。

 手術はカテーテルによる脳血管内手術。全身麻酔から目覚めたら、右半身がまったく動かない状態になっていました。普通、混乱しますよね。でも初めの20日間ぐらいは脳が事態を理解できず、ぼーっとしていました。

 当時のことはぼんやりした記憶しかなく、何を考えていたかわかりません。コロナ禍だったので面会も禁止で誰にも会えず、「事務所へ連絡しなくちゃ」という意識もゼロでした。退院予定が過ぎても連絡が取れず、事務所は大慌てだったようです。母親とやりとりしたようですが、情報が少なくて、迫るコンサートへの対応に苦慮したと聞きました。

 自分の置かれた事態がわかり始めてからは、なんとか手足を動かそうとリハビリに励みました。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の下で1日1時間ずつ、計3時間に加え、目覚めてから寝るまでずっと自主的リハビリ。だってそれしかやることないんですから……。

 なぜか自分では言語に問題はないと思って、言語の時間を作業の時間に変えてもらいました。言語聴覚士の先生はやりたい治療があったでしょうに、まずは手足が動くようになりたいという私の熱意に折れてくれました。

■以前よりも高音がまろやかに出るようになった

 退院できたのは3カ月後です。そこから仕事に復帰するまでさらに9カ月間を要しました。退院した時点で話は普通にできているつもりでしたが、あとからメンバーに聞くと、会話のペースはだいぶ遅く、質問してから沈黙があってやっと答えが出てくる感じだったようです。自分では即答しているつもりだったんですけどね。

 退院後のあるインタビューでは「入院生活を楽しんでいた」と答えたんですけど、母に聞くと「何言ってるの。そんなことなかった。『死にたい』と言っていたわよ」と言われたので、どうやら入院中の私はつらかったようです(笑)。

 それでもリハビリを頑張れたのは、ファンの方々がいたからです。ツイッターやお手紙での応援がどれだけ大きな励みになったか。ファンの方々がいなかったら、とても頑張れなかったと思います。

 右半身は顔から足先まで麻痺していましたから、当然、声にも影響しました。病院でもリハビリ室を時間外に貸し切らせてもらって、大学のときにやっていた発声練習を繰り返しました。でも本来の音域は全然出なかった。

 劇的に音域が広がったのは、メンバーのおかげです。退院後、以前の自分の声の出し方をいろいろ細かく教えてくれました。こればっかりは理学療法や作業療法の先生ではわからなかったこと。病気を機に発声が変わって、以前よりも声が良くなったんです。高音もまろやかに出せるようになりました。

 とはいえまだ完璧ではなく、今でも必死にリハビリ中です。全身の回復度は80%ぐらい。日常生活が困るレベルからは脱しました。ここまでくると、日々のリハビリの成果はほとんど見えないのでモチベーションが下がってしまうんですけど、2カ月前の取材では70%と答えていたので、回復していることはたしかです。

 最近、できるようになってきたのは階段を下りること。今より速く下りられるようになるのが目標です。右手は見た目にはわからないくらい回復しましたが、字を書くことはまだまだ難しい。毎日2~3行の日記を書くようにしています。

 じつは最近、言語聴覚士のリハビリに行き始めました。

 入院中、手足のリハビリを優先して中断してしまった言語ですが、ステージ上で、2~3日前に決まったセリフが記憶できないことに気づいて、ようやく言語聴覚のリハビリの必要性を感じたのです。

 ファンの方にはご心配をかけ、メンバーには大変な思いをさせてしまいましたが、今、病気を振り返ると「悪いことばかりではなかった」と思います。

 なぜなら今まであまり気にかけなかった“人の痛み”を知ることができたからです。そして、すぐには成果が見えなくても、今を一生懸命やっていれば、結果はついてくると学びました。

 5月から結成15周年の記念ツアーが始まります。同じ病気でリハビリ中の人にも希望を与えられるようなステージにしたいと思っています。

(聞き手=松永詠美子)

▽佐賀龍彦(さが・たつひこ) 1981年生まれ、京都府出身。京都市立芸術大学声楽科卒業。仲代達矢主宰の「無名塾」を経て、2008年に男性4人のボーカルグループ「LE VELVETS」の一員としてデビュー。ミュージカル出演やナレーションでも活躍している。今年結成15周年として5月27日から関東・関西地区全7カ所で記念コンサートを行う。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  3. 3

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  4. 4

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  5. 5

    ドジャース大谷が佐々木朗希への「痛烈な皮肉」を体現…耳の痛い“フォア・ザ・チーム”の発言も

  1. 6

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  2. 7

    高市早苗氏は大焦り? コバホークこと小林鷹之氏が総裁選出馬に出馬意向で自民保守陣営は“分裂”不可避

  3. 8

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった

  4. 9

    (2)事実上の「全権監督」として年上コーチを捻じ伏せた…セVでも今オフコーチ陣の首筋は寒い

  5. 10

    巨人阿部監督はたった1年で崖っぷち…阪神と藤川監督にクビを飛ばされる3人の監督