成毛眞さん<3>記者400人の前で「飽きたから辞める」と

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 2000年5月、マイクロソフト日本法人の社長を退任した。「ウィンドウズ95」の日本語版を普及させるなどで業績を伸ばし、社長就任時に90億円だった年商を1690億円に拡大。それでも「飽きたから」と退いた。44歳の時だった。

「よく15年続いたと思いますよ。当時はグーグルとかがまだ出てきてないから、地球上最強の企業でした。そこで社長は10年やってきたわけですからね。飽きますよ」

 退任発表の会見場には、400人の記者が詰めかけた。テレビは、NHKからCNNまで12局くらい来たという。

「最初の代表質問で、『辞める動機はなんですか?』と聞かれたので、『飽きたんです』って答えたら、シーンとして。冗談だと思ったらしく、僕の次に答えたヤツが『本当です。この人は飽きたら辞めるんです』ってフォローしたら、記者のテンションがかなり落ちているのがわかりました。CNNは裏取りで、米本社にまで聞いたみたい。でも、実際は言えないだけで、飽きたから辞める社長は何人もいます。頭がおかしそうに見えるから言えないだけです。知っている人でも、結構いますよ。誰かは言えないけどね」

■退任後に設立した投資コンサル会社で大儲け

 それにしても“社長”の肩書は惜しくなかったのか。

「日本の社長といっても、実際は本社の『部長』クラスですから。米本社への転勤も誘われたんですが、断りました。理由は場所です。シアトルに住むなんて、身の毛もよだちますよ。パリだったら結構な確率で行っていたと思います。外資系に勤める人って住みたい場所で会社を変えたりするんです。マイクロソフト時代、日本の財務責任者は米本社でリクルートされた中国人でしたが、日本に来る条件が『5年経ったらシンガポールに転勤させること』でした」

 退任後は、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。

「退職金の資産管理会社みたいな会社でした。ただ、マイクロソフト時代は、それほど儲けなかったのに、インスパイアでは大儲けしました。サラリーマン10人分の一生分ってイメージかな。もう稼ぐ必要がないんです。44歳で辞めて、ベンチャーと出版業で遊んできました。しょせん、お金を稼ぐのはゲーム。給与をもらうために働いていたから、会社員時代の仕事は今と関係なさすぎて役に立たない。3万人規模の外資系でOSを売っていても、今は小規模のベンチャーキャピタルですからね」

 マイクロソフト時代のメンバーとは年に1回、OB会で顔を合わす程度だ。

「驚くほど、付き合いをしてません。OB会も30分で帰るみたいな。会社は給与をもらいに行ってるだけなのに、辞めてまで付き合うのはね。定年を控えて部下とかと仲良くする必要はありません。むしろ、違う業界と付き合ったほうがいい。僕の場合はたまたま、それが出版社だった」

 退任後、本を執筆したり、書評サイト「HONZ」にもつながった。 =つづく

 (取材・文=小野真依子/日刊ゲンダイ)

▽なるけ・まこと 1955年北海道生まれ。中央大商学部卒業後、自動車部品メーカー「現・ダイナックス」に入社。86年に「現・日本マイクロソフト」に入社し、91年に同社代表取締役社長に就任。2000年に退任後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。現在は、書評サイト「HONZ」代表を務める。近著「俺たちの定年後」(ワニブックスPLUS新書)など。

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