名越康文さん 読書嫌いの30歳「ドストエフスキー」で開眼

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 近畿大学医学部を卒業後、大阪府立中宮病院(現・大阪府立精神医療センター)で精神科医をし、99年に独立してからは、テレビ番組のコメンテーターや雑誌の連載など幅広く活躍する名越康文さん(58)。どんな本を読んできたのか?

  ◇  ◇  ◇

 読書は小学校高学年から始めた。

「高知の田舎の出だった父親は若い頃は本を読みたくても読めなかったそうですが、僕が物心つく頃にはシェークスピアや夏目漱石の全集などがあって、本棚には500冊も、1000冊も並んでいた。父は商売をしていましたが、都会に出てきてからいろんな人に出会い、自分の読書量の少なさに焦ったのかも知れません」

 その父親に薦められて、小学校4年生の夏休みに漱石の「吾輩は猫である」を最後まで読んだ。その後は、森鴎外、太宰治や武者小路実篤などに手を付けた。

「小学生でしたから、全然分からなかった。唯一、5年生の時に読んだ森鴎外の『』は、男女のすれ違いのさまが胸に響きました。志賀直哉の『暗夜行路』を50ページくらい読んだところで、『もう無理』って投げ出して、一切の読書をやめました。中学、高校生の6年間は極端で、少年サンデーやジャンプなど毎週5冊の漫画雑誌を読んでいました。年に500冊、読むのは徹底して漫画だけでした」

 読書を再開したのは30歳のころ。

 医師になって、身体教育研究所の野口裕之氏の講習会に参加した。

「整体の話というよりも、『人間にとって身体とは何か』という深い哲学に感動しました。その後、じかにお話ができる機会をいただいたときに、野口先生から『名越さんは、心理分析やカウンセリングをしているんですね? では、ドストエフスキーは読まれましたか?』と聞かれたんです。恥ずかしながら『いいえ』と答えると、『フロイトを読むならドストエフスキーを読まないと』って。それで毎日夜中の0時から3時まで時間を取って、『白痴』や『地下生活者の手記』、あといろいろ哲学書を読みだした。慣れていないので、一晩にせいぜい20ページ、少ない時は3ページしか読めないんですが、30代はだいたいずっと読み続けました」

 以来、読書にハマる。現在は高野山大学や相愛大学の客員教授も務め、「宗教を心理学的に読み解いて伝えるのがライフワーク」と言う。古典は常に携帯し、「日本真言の哲学」(金山穆韶・柳田謙十郎著)は2回半読んだ。空海の「即身成仏義」や「吽字義」は、数年に1度読み返す。

「吉田松陰が孟子のことがすごく好きだと何かで知って、儒教の賢人・孟子を読みだしたのは40代後半からです。同様に、瞑想に興味を持って調べているうちに神秘思想家のゲオルギイ・グルジエフにたどりつきました。神秘家なのに心理療法のもとをつくった人で、彼の長編『ベルゼバブの孫への話―人間の生に対する客観的かつ公平無私なる批判』を購入。ただし、1000ページくらいあって、50ページで挫折。この本は70歳になったらじっくり読むつもりです」

 先般、自身の読み方をまとめた「精神科医が教える良質読書」(かんき出版)を上梓した。

「本は読み飛ばしたり、積んでおいていい。一生読める本や、いまは読めないから熟年で読むという本を決めておくと、自分の人生が続いていくという安心感、道しるべができます」

(取材・文=小野真依子/日刊ゲンダイ)

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