仲間には「帰ったふり」…欲しい油絵と市場での駆け引き
だいぶ前の話だが、ある日、市場へ行くと「きょうはあまり出物ないよ」と先輩に声をかけられた。遠目で荷蔵(競り品の控え場所)を見た感じでは、確かにめぼしい物がない。こんな日もある。たばこでも吸って帰るか。
競りから離れたテーブルで、洋画だけを探している連中はたむろしている。油絵しか買わないから、「油虫」と呼ぶ口の悪い者もいたが。
一通り、世間話、噂話、自慢話を聞いたりして先に帰ろうと思ったら、気になる風呂敷があった。出品を待つ荷物だが、まだ開かれていない。
近寄ると、ちょうど風呂敷を開けているところで、明治時代の油絵が2、3点あった。
少しマニアックな作品で、それほど高い物でもないが、利幅のありそうな品物だった。ただ、仲間内で競ってしまうと高くついてしまう。またはノリ(共同購入)とかクジ(値を決め、談合して……)とか少々面倒なことにもなる。