400円のコーヒー片手にクラシックを楽しむ要町の名曲喫茶

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 東京メトロで池袋の次の要町。地味といえば地味な駅で、近くで見るべきものといっても思いつかない。

 しかし、駅前の大通りを外れて住宅街に入れば、道が複雑なこともあいまって、不意に独特の趣を醸し出す店に出くわすことがある。

 えびす通り商店街の先、10分ほど歩いたところにある名曲喫茶ショパンもそのひとつで、漏れ聞こえてきた音色に誘われ入ったのをきっかけに、月に1度ぐらいの頻度で通うようになった。

 店内に誰もいない時、マスターはラジオの「クラシックカフェ」をかけて下さる。クラシックにさしたる知識も嗜好もない身としては、作品紹介を頭に入れつつ何となくくつろぐにはちょうどよい。

 いつもは隅っこでコーヒーをすするだけだが、先日、マスターの宮本英世さんに話を伺った。1937年の生まれで、大学を出た後、日本コロムビアに入社。レコード業界を渡り歩いた後、81年に中野坂上で「ショパン」を開店。新宿再開発を機に91年に要町へ移転した。「東京に10軒ほど名曲喫茶はあるけれど、本を書くのは僕だけなんですよ」とおっしゃる通り、店内には音楽関連の著書がズラリと並ぶ。

 退職後、名曲喫茶を開いた理由は、日給300円で苦学していた折、60円払って通った国分寺「でんえん」が自分の原点だと考えたから、とのこと。中野坂上でのコーヒー代は280円で、工芸大の学生たちで賑わったそうだ。

 現在ブレンドコーヒーは400円。同じ頃の東京メトロの初乗り運賃が20円、80円、170円と上がったのと比べると、私のように粘る客がいるにもかかわらず、誰もがコーヒー片手にタンノイのセットから流れる名曲に耳を傾けて過ごせる場を、よく伝えて下さっていると思う。

 なぜ店名をショパンに?と尋ねると、「気軽に立ち寄ってほしいから。ベートーベンだと入りにくいでしょう」とのこと。実際、窓も大きく花であふれた店内は明るく、名曲喫茶としては例外的におしゃべりが絶えない。そんな宮本さん夫妻の人柄を慕って全国からファンが立ち寄り、芳名録は10冊に及ぶという。

 レコードからCDそして配信へと変化した点については「手軽に聴けるようになって、じっくりと聴く人は減りましたね……店に入るなりパソコンを広げられるとがっかりする」とおっしゃる。宮本さん自身は「作品解説は書いても演奏批評は書かぬ」のだそうで、せっかくここに足を運んでも、聞きかじりの批評を確かめるために音楽を聴いていてはつまらないだろう。インターネットのなかった昭和の頃の心の余裕を持つことこそ、名曲喫茶を楽しむためのコツといえるのかもしれない。

(藤田崇義)

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