第6波も敗戦濃厚…なぜ政府はコロナ対策で失敗を繰り返すのか? 山岡淳一郎氏に聞く

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山岡淳一郎(ノンフィクション作家)

 オミクロン株が猛威を振るう新型コロナウイルス第6波の脅威がつづく。感染力の強いオミクロン株の猛威によって感染者数はケタ違いに増え、高齢者を中心に重症者や死者も急増している。100人に3人しか入院できず、自宅で亡くなるケースも相次いでいる。第6波も「敗戦濃厚」だ。コロナに襲われ2年あまり。なぜ政府は、失敗を繰り返すのか。現場取材を続ける「コロナ戦記 医療現場と政治の700日」(岩波書店)の著者に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ーー重症者と死者の急増は、ケタ違いの感染者数によって「分母」が大きくなっただけでは説明できない事態です。

 第6波の特徴は高齢者が感染し、心臓、腎臓、呼吸器などの持病を悪化させて亡くなるケースが多いことです。高齢者施設の集団感染が多発していますが、医療が追いついていない。高齢者を搬送できない事例が増えているようです。

 ーー高齢者の大半が3回目のワクチンを打てないまま第6波が直撃しました。

 医療専門家は3回目接種について、感染予防効果よりも重症化や死亡リスクを低下させる点で有効だとしています。感染拡大が沈静化していた昨年11月、12月に高齢者施設での3回目接種を進めていれば、様相は随分変わっていたと思います。

 ーー高齢者施設への前倒し接種を要望した自治体もありました。

 東京・世田谷区の保坂展人区長は11月初旬には訴えていました。高齢者が大勢集まり、クラスターが起きやすい高齢者施設で先行接種するのは当然の策です。

■自治体判断に政権がブレーキかけ1カ月以上もムダに

 ーー昨年11月15日の厚労省の予防接種・ワクチン分科会は、3回目接種について2回目完了から「6カ月」への前倒しを自治体判断で認める方針を了承しました。ところが翌日、後藤厚労相と堀内ワクチン担当相が会見でブレーキをかけました。

 自治体は大混乱でした。もし、ブレーキがかかっていなければ、世田谷区では11月後半から高齢者施設で接種を始められていたでしょう。結局、12月23日からとなった。1カ月以上も時間を無駄にしたのです。

 ーーなぜ、ブレーキをかけたのでしょうか。

「自治体間競争」を避けたい自治体から与党や政府に対して反対の訴えはあったようです。もっとも、国側も第6波を甘くみていた。水際対策をしっかりやっているから、時間は稼げる。「8カ月」で十分間に合う。楽観論で失敗を繰り返す、いつものパターンです。加えて、後藤、堀内両大臣が力量的にどうしようもなかった。

 ーー前大臣とは違いますか。

 田村前厚労相を持ち上げるつもりはありませんが、少なくとも専門家の話を聞き、情報収集し、自ら発信もしていた。厚労省が消極的だった高齢者施設での大規模PCR検査を世田谷区が実施したことも、田村氏は理解していた。退任する際、医療体制が不十分だったと認め、国民に謝罪をした。異例です。他方、菅前首相は石川県知事選の応援で「100万回の接種を進め、デルタ株流行時に多くの命を守れた」とぬけぬけとアピールしていた。言葉を失いました。

 ーー私自身、1月下旬に感染しました。妻の感染が判明したため保健所に宿泊療養を希望しましたが、難色を示され、結果として自分も陽性になった。家庭内感染を防ぐのは至難の業だと実感しました。

 ホテルの部屋に1人ずつ入れて管理するのは非効率です。軽症の患者を臨時施設に集め、医師や看護師が定期的に健康観察する体制を事前に整備しておくべきでした。政府のコロナ対策は、相変わらず飲食店をターゲットにしているだけ。感染源となっている家庭への対応は現場に任せっぱなし。

 ーー医療提供体制はどうですか。

 病床を3割増やしても全然足りない。検査キットも不足している。陽性者が医者に頼れない現状を追認するだけで、ほとんど放置です。自分で健康観察して治ってくださいと。今、目の前で具合が悪くなっている患者にどう医療を提供するのかが問われているのに、ワクチン頼みで、しかも3回目接種は進まない。

政府のコロナ対策は属人的

 ーーコロナで医療の脆弱性が浮かび上がりましたが、今後は充実させる方向に転換する可能性はあるのでしょうか。

 厚労省は「地域医療構想」の策定に向け、公的病院を再編・統合し、病院閉鎖や病床削減を進めてきました。コロナ患者の7~8割は公的病院が診療している。潰されそうになっている病院が一生懸命コロナ患者に対応しています。これ、潰せないですよね。さすがにブレーキがかかりましたが、この後どうするのかの議論はこれからです。重要なテーマです。

 ーーこの2年あまり、失敗を繰り返したのは何がマズかったのですか。

 2020年1~3月の初動期の根本策の誤りを修正できないまま今に至っています。象徴的なのはPCR検査の抑制策です。病院のキャパシティーに合わせて検査数を絞るのが出発点ですが、お墨付きを与えたのが専門家会議、今の分科会の専門家たちです。「検査をしなくてもクラスターを追えば大丈夫」と主張していた。足元では検査数は多少増えましたが、抑制は今も続いています。検査で陽性者を把握して保護し、治療するという根本策が、いまだにできていないのです。

 ーー誤った政策に専門家がお墨付きを与えたとして、2年以上もなぜ修正できなかったのですか。

 組織や構造的な問題に加え、属人的な面も大きい。組織に居座ってコロナ対策の舵取りをする専門家の感覚にも相当おかしな印象があります。2万人以上が亡くなっているのに、分科会のメンバーは反省してこうしようという議論をしない。また、全然サイエンスと違う政治的なことをやるわけですよ。

 ーーというと?

 東京五輪開催の是非について、分科会の尾身茂会長は口を挟まないというスタンスでした。ところが、開会が近づく中、感染が広がっていき、世論調査では「中止か延期」が7割に上っていた。すると、尾身氏は「いまの状況で(五輪を)やるというのは、ふつうはない」と言いながら、「開催規模をできるだけ小さく」と国会で言った。メディアは菅政権に盾突いているとして「尾身の乱」と報じましたが、僕は「えっ、これは乱なのか」と思いました。国民は五輪を開催するのか、しないのかを問うている。その点には触れず、「規模縮小」へと議論をすり替えた。結局、「無観客開催」への道を敷いたわけです。科学とは程遠い。まさに政治的です。

■「権威」に腰が引けるメディア

 ーーメディアの責任も大きい。

 メディアも「権威」のある専門家の批判を控える傾向があります。専門家は情報量も多く、知識も豊富です。尾身氏と近しくなり、記事を書くのもいいでしょうが、客観視する姿勢に欠けている。コロナに感染し、医療を受ける側の立場から、政策やアナウンスの仕方がどうなのかをみる必要がある。感染にはプロもアマチュアもないのです。メディアは権威に対し、腰を引かず、専門家個人を冷静に批判しなければならない。

 ーー個人をターゲットにすべきと。

 そうです。日本では組織のしがらみの問題にすることが多い。しかし、「感染症ムラ」とひとくくりにしてしまうと、批判がぼんやりしてしまう。ムラの長がどうふるまい、誰がどう言ったかが、「ムラ」と言った瞬間に消えてしまうのです。個人でやっていることだから、一人一人を問題にしないといけない。政府組織の専門家は巧妙ですよ。責任を取らないために言質を残したり、「有志」で発言したり……。だまされてはいけません。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

(聞き手=生田修平/日刊ゲンダイ)

▽山岡淳一郎(やまおか・じゅんいちろう)1959年、愛媛県生まれ。早大中退。「人と時代」「公と私」を共通テーマに政治、経済、近現代史、建築、医療など幅広く執筆。市民メディア放送局「デモクラシータイムス」で司会、コメンテーターを務める。「原発と権力」「ドキュメント 感染症利権」「後藤新平 日本の羅針盤となった男」など著書多数。

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