(23)瀬戸内の美味を想う
店主が薦めたのは塩叩きである。軽く塩をふって皮目を炙り、薬味はワサビ、芽紫蘇にミョウガ。まずはそのまま、次にワサビをのせ、さらには、芽紫蘇や、ミョウガものせて自家製の出汁醤油につけて、口へ運ぶ。
甘く、香ばしく、さわやかで、タイやマグロにはないうま味が口の中に広がる。福井の「黒龍」の純米吟醸が、サワラの脂をすっきり流すのか、ひと口飲んでは叩きをひと切れ、そのテンポが軽やかに続くのだ。
目星をつけていた一軒で、最初の酒肴がご馳走に思える。これほどうれしいことはない。旅先で酒を飲む楽しみだ。地元岡山の人々にさぞ愛されているのだろうねと伺うと、出張や転勤で来ている他県の人も見えますよ、とのことだった。なるほど、それも納得。
私はこの日、サワラの塩叩きの後は、カキの昆布焼きで岡山の地酒「大典白菊おりがらみ」をもらい、メバルの煮つけには、これも地酒の「宙狐 特別純米」の燗を合わせた。酒も肴もすばらしい。
腹も満たしたいなら、おにぎりに茶漬け、中落丼に、雑炊まで用意していた。
こんな店を知っていると、次に岡山に行くときが楽しみになる。そういう料理屋、そういう酒場を、旅の拠点になりそうな街に何軒かもっていれば、旅に過密な日程は禁物。旅はむしろ、急ぐことなく過ごす絶好の機会だ。
盛り場から遠くないところに宿をとり、目当ての一軒に行き、その後は、また次の目当ての店を探すためのブラブラ歩きに興じる。そんな旅は、ささやかだけど、大事な慰安だ。
世は今、桜の季節。瀬戸内の桜鯛もそろそろ旬だろう。心が浮き立ってくる。

















