著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(23)瀬戸内の美味を想う

公開日: 更新日:

 店主が薦めたのは塩叩きである。軽く塩をふって皮目を炙り、薬味はワサビ、芽紫蘇にミョウガ。まずはそのまま、次にワサビをのせ、さらには、芽紫蘇や、ミョウガものせて自家製の出汁醤油につけて、口へ運ぶ。

 甘く、香ばしく、さわやかで、タイやマグロにはないうま味が口の中に広がる。福井の「黒龍」の純米吟醸が、サワラの脂をすっきり流すのか、ひと口飲んでは叩きをひと切れ、そのテンポが軽やかに続くのだ。

 目星をつけていた一軒で、最初の酒肴がご馳走に思える。これほどうれしいことはない。旅先で酒を飲む楽しみだ。地元岡山の人々にさぞ愛されているのだろうねと伺うと、出張や転勤で来ている他県の人も見えますよ、とのことだった。なるほど、それも納得。

 私はこの日、サワラの塩叩きの後は、カキの昆布焼きで岡山の地酒「大典白菊おりがらみ」をもらい、メバルの煮つけには、これも地酒の「宙狐 特別純米」の燗を合わせた。酒も肴もすばらしい。

 腹も満たしたいなら、おにぎりに茶漬け、中落丼に、雑炊まで用意していた。

 こんな店を知っていると、次に岡山に行くときが楽しみになる。そういう料理屋、そういう酒場を、旅の拠点になりそうな街に何軒かもっていれば、旅に過密な日程は禁物。旅はむしろ、急ぐことなく過ごす絶好の機会だ。

 盛り場から遠くないところに宿をとり、目当ての一軒に行き、その後は、また次の目当ての店を探すためのブラブラ歩きに興じる。そんな旅は、ささやかだけど、大事な慰安だ。

 世は今、桜の季節。瀬戸内の桜鯛もそろそろ旬だろう。心が浮き立ってくる。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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