著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

(3)泣き夫と最後のドライブに

公開日: 更新日:

 次々と葬儀会場にやって来た人たちが、椅子に腰掛けたエンバーミングを施した背広姿の故人と握手し、「ありがとうございました」と声をかけて別れを告げる--。前回紹介した、1980年代のアメリカでの光景だ。

 エンバーミング(遺体衛生保全)施術を行うと、そこまでできるのか。アメリカの技術が進んでいるからだと思う向きもいるかもしれない。しかし、国内のエンバーマーの教育や資格制度を運営する一般社団法人「日本遺体衛生保全協会」事務局長の加藤裕二さんはきっぱり言う。

「日本のエンバーミングの技術は高く、今ではアメリカに遜色ありません。『座って、握手してお別れ』という形も、依頼があれば日本でも可能です」

 筆者は、葬儀取材の中で、エンバーミングされた遺体をこれまで6例、間近に見てきた。いずれも、ただ眠っているような安らかな顔で、声をかけたら起き上がってくると思えるほどの寝姿だった。

 人の体は、亡くなると同時に変化が起きる。体温が下がって冷たくなる。血液が重力で体の低い部分に集まって皮膚が変色する。筋肉が硬直する。さらに細菌などが繁殖し、体液が漏れれば周りの人たちが感染症の危険にさらされる。翌日にはアンモニア臭などが発生する。

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