「馬毛島」を防衛省に売却 86歳老経営者の14年の“粘り腰”
<星霜11年、防衛省担当者に妨害を受けている老人です>
こう書かれた墨痕鮮やかな筆書きの挨拶状が手元にある。<老人>とは、立石建設グループを率いる立石勲氏。相手は、安倍首相の信頼が厚い加藤勝信厚生労働相で、書面が届けられた3年前は、特命担当相だった。
立石氏は当時、傘下のタストン・エアポートが所有する鹿児島県・種子島西方12キロの無人島「馬毛島」を、米空母艦載機の陸上離着陸訓練用に売却すべく、防衛省と交渉していた。だが、価格差がネックとなり交渉は進展しない。
石油備蓄基地、レーダー基地などいくつもの構想が生まれ、いずれも実らなかった馬毛島を、立石氏は1995年、4億円で購入。「民間の国際貨物空港にする」という夢に向け約150億円を投入、南北4200メートル、東西2400メートルの“粗滑走路”を設置した。民間空港の実現は難しかったものの、2006年、空母艦載機の部隊が厚木基地から岩国基地に移駐するのに際し、「岩国基地からの距離が近く騒音の心配のない無人島で条件に合う」と防衛省が馬毛島に目をつけ、交渉が開始された。だが、防衛省の鑑定価格が45億円なのに対し立石氏の希望価格は400億円。その落差は埋まらず、14年の歳月が流れた。しかし、11月29日、ついに「160億円プラスアルファ」で合意に達し、防衛省と契約書を取り交わした。誰もが驚く驚異の“粘り腰”だった。