未来のない銀行業界が生き残るために今やるべきこと

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低迷を続ける銀行業界

 私が身を置いている不動産業業界から見ると、銀行業界はまさに密接している「隣の業界」のようなイメージです

 昨今、不動産業界では「不動産の証券化」が盛んになり、証券業界とのつき合いも濃くなりました。それでも不動産業界にとって銀行業界は、融資をして預ける以上の存在です。一蓮托生と言っては大げさですが、少なくとも金融機関なしには不動産業界は成り立たないと言ってよいと思います。

 私が大学生だった1980年代は、文系の優秀な学生の多くが銀行に就職しました。東京六大学野球で首位打者を取り、勉学も優秀だったクラスメイトも、迷わず都市銀行に就職していたのをよく覚えています。

 私の地元で「学校創立以来の秀才」との評判だった中学時代の同級生の兄も、すんなり東大に入り、卒業後は旧日本興業銀行に就職しました。郊外の公立中学とはいえ、創立以来の秀才ですから、子供ながら興銀というのはそれほどの会社なのかと思ったものです。

 ですから私は、今でも銀行は人材の宝庫だと思っています。

 そのためか、個人的に企業に投資をする際は、銀行業界を重視してきました。

 2003年ごろ、各大手銀行の不良債権処理が山場を迎えたとき、その不良債権があまりにも莫大だったため、銀行株が軒並み売られたことがありました。中には破綻するではないか、との噂が出た銀行もありました。

 そのとき私は、優秀な人材が集まっている銀行はこの先、必ず復活するであろうとの想いから、個人資産のうち、かなりの割合を銀行株に投資しました。このことは、拙著『厳しい時代を生き抜くための逆張り的投資術』(廣済堂出版)にくわしく書きましたが、その狙いは見事に当たりました。株価が上昇したタイミングで株を売却し、少なくない利益を得ることができました。

 ただ一点だけ、あてが外れたことがあります。やがて銀行業界はかつてのような輝きを取り戻し、長期にわたって株価が上昇していくと予想していたのですが、その目論見は外れてしまいました。

 政権が民主党から自民党に移り、アベノミクスという株価上昇を迎えた局面でも、その中で唯一と言ってよいほど低迷を続けたのが銀行業界でした。

 ここまで、地方銀行の危機を「不動産」という側面から見てきました。

 しかし、「株価の低迷」=「企業価値の低迷」という現状から判断すれば、地方銀行だけでなく、メガバンクの現状も惨憺たるものと言ってよいと思います。

■銀行はこれからどうなるのか?

 以前いつもお世話になっているメガバンクを訪れたときのこと。ある行員の方が、申し訳なさそうに「ドル預金」なるものをすすめてきました。

 ためしに話を聞いてみると、ドル預金の金利よりも為替手数料のほうが高いのです。これでは、メガバンクを通じてドル預金をする意味がまったくありません。「もしこの投資商品にメリットがあるなら、一つでよいから教えてほしい」と言うと、行員の方は黙ってしまいました。

 為替リスクが大きく、しかもかつてのように高金利とはいえないドル預金をする意味が、今現在果たしてあるのでしょうか? するにしても、銀行でドル預金をするより、はるかに為替手数料が安く、かつ高金利でドル預金をする方法は、世の中にいくらでもあります。

 じつはこれとまったく同じ営業を、全国の金融機関が行っています。仕事でとある田舎町を訪れたとき、地元銀行の新入社員の方と話をする機会がありました。日々どんな仕事をしているのかと聞くと、その真面目そうな行員は「一軒一軒戸別訪問して、ドル預金の営業をしている」というのです。

 東京でも、地方でも、こうしたハイリスクかつローリターンな金融商品を銀行が売っているという事実を知り、私はがく然としました。これが今の銀行業界の現実なのだと、暗澹たる気持ちになりました。

優秀な人材を新しい産業の創出や育成に振り分けるべき

 なぜ、こんな状況になってしまったのか? 『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著、河出書房新社)という本に、非常に興味深いことが書かれていました。

 今から500年前より以前の人類は、何千年もの間、経済が停滞した世界で暮らしていたそうです。誰も「将来が現在より良くなる」とは思っていませんでした。「今より悪くなるか、せいぜい同程度だろう」と思っていたと。つまり、富の総量が増加しない時代がずっと続いていたというのです。

 ところが、500年ほど前から、新大陸の発見やテクノロジーの進化、また生産や交易が盛んになるにつれ、「富の総量は増やすことができる」という考えに変わって言ったそうです。自分も、まわりの人も、皆進歩していくものなのだと。

 人々は、「将来」に信頼を寄せるようになり、この信頼によって生み出されたのが、「信用(=クレジット)」だと。そして、この「信用」というものが人類史上、初めて生まれたことにより、「お金を貸す」という行為も生まれたのだと。

 もっと端的に言えば、「今日より明日のほうが、今年よりも来年のほうが豊かになる」と思える世界が訪れたことで、初めてお金を他者に貸すということが始まったというのです。そして、お金を貸すという行為は、この500年で急速に広まったと。

■「事業」を起こすしかない

 以前、あるアジアの新興国を訪れたとき、日本製の新型バイクを嬉しそうに乗る若者たちに出会いました。

 バイクの値段を聞くと、日本円で約30万円だと答えました。しかし、その若者の月収はたった2万円です。「ローンを払っていけるのか?」と聞くと、「まったく心配していないよ。去年より給料は2倍になったし、これからもどんどん上がっていくからね」と笑顔で答えてくれました。

 現在の日本において、「今日よりも明日のほうが、今年よりも来年のほうが豊かになる」と確信している人が、どれほどいるでしょうか。人口減少と高齢化を同時に迎えたこの国で、そうした楽観的な確信を持つことのできる人は、ごく少数なのではないでしょうか。

 そうなりますと、そもそも論として、他人にお金を貸すということを生業にしている銀行業が、日本で今後、成長して行くことは非常に困難であるように思えてきます。このことは、ここ数年の各行の株価にも表れているように思います。

 これは言うまでもなく、地方金融機関だけの問題ではありません。メガバンクもまた、同じ問題を抱えていると言えます。では、この解決策はあるのでしょうか?

 人口問題を解決するためにヨーロッパやオーストラリアのように、日本も移民を受け入れる用意はあるのでしょうか。それも一つの答えだと思います。

 しかしこの状況下で、私たちがすぐにできることは、新しい産業を創出することだと思います。新規事業を起こして育てること、それしかないのではないでしょうか。

 農業なのか、再生エネルギーなのか、医療なのか、介護なのか、とにかく新しい産業を創出し、育てることをしなければ、経済は縮小していく一方なのですから。

 では、新しい産業を育てる担い手となるのは誰なのか? その余力がまだ残っているのは、少なくとも地方においては、金融機関ではないでしょうか。

 これまでの、担保をとって融資をしておけば取りっぱぐれないという都合の良いビジネスモデルは、地方からいち早く崩壊し始めています。まだ残っている優秀な人材を、顧客にとってなんらメリットのないドル預金の営業などではなく、新しい産業の創出や育成にこそ振り分けるべきではないでしょうか。

 これが、金融機関に残された、唯一の「生き残り戦略」だと思うのです。

(長谷川高・著「不動産2.0」イーストプレス刊より)

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