崩壊するエレベーターの安全神話…保守コスト低下で命を預ける装置が価格競争の産物に
神戸市の商業ビルで今年2月、31歳の医師がエレベーターの昇降路に転落し死亡した。4階の扉が「かご」のない状態で開いたままになっていたという。
近年、こうしたエレベーター事故の報道が相次いでいる。乗っていた「かご」が急に上昇して天井に衝突したり、点検中の作業員が挟まれて死亡したりと、もはや他人事とは言えない事例ばかりだ。
その背景には、エレベーター保守の現場で進行する質の低下があると、メンテナンス会社の代表が語る。
「かつて1回7万円程度だった点検費用がどんどん値下げされて、今や2万円台で請け負う業者もある。薄利多売が常態化してしまい、点検時間も1時間かけるべきところを30分に短縮。従来の倍の件数をこなさなければ利益が出ないためで、十分なメンテナンスができるわけがない」
こうした会社は、経験や技術を持つ作業員を抱え続ける体力もない。微妙な異音や振動に気づいてくれる職人的技術者はいまや希少な存在だという。
命を預ける装置が価格競争の産物になってしまっている、と危機感を語る。