コロナ不況の結婚式業界に新規参入 挫折から起死回生まで

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Satomi Noir代表取締役社長 里見憲智さん

 コロナ禍で需要が落ち込んだ結婚式事業に、昨年あえて参入して話題を呼んだウエディングフォト会社だ。その理由を聞くと「結婚式は単なるイベントではなく、新郎新婦が決意を確認し合う大事な儀式。単に写真を撮るだけでは、2人のその後の人生に影響があると心配したのです。大人数で集まることはできなくとも、私どものパートナーである高級ホテルを活用して、2人の記憶に残るぜいたくな結婚式を挙げて欲しいと願いを込めて『ふたリッチ婚』と名づけました」。

 石川県に生まれ、写真の道に入ったきっかけはユニークだ。

「高校の時に『MASTERキートン』という主人公が考古学者のマンガにハマって、大学では考古学を専攻しました。そうしたら考古学の研究室に写真の先生がいたんです。遺跡って発掘された後は、建物が立ったり埋め戻されたりしてしまうので、ちゃんと写真に残しておかなければならないからです。その仕事ぶりを見てロマンを感じましたね。それで考古学の勉強そっちのけで写真の勉強を始めたんです」

 大学を卒業したら考古学専門の写真家になろう――しかし、その夢ははかなくも崩れ去る。

「正直、それだけで食べていくのが厳しかったんです。だけど写真が大好きになっていたので、とりあえずカメラに触れればいいと、カメラ雑誌に求人が出ていた横浜の老舗写真館に応募しました」

 面接には自ら撮った土器の写真を持参したという。無事採用され、カメラマン修業が始まったのだが……。

「仕事はホテルの結婚式の記念写真撮影。先輩カメラマンが“ご新郎さまこちら! ご新婦さまこちら! もうちょっと笑って!”とか言ってるのを見て、わ、無理! と思いましたね。カメラマンというのは黙ってシャッターを押して、1日暗室にこもってプリントを焼いていればいいと思ってましたし、人前でしゃべるなんて想像もしてなかったんですから」

 いきなり現実の壁にぶち当たった。しかし歯を食いしばって現場仕事を重ねていくうちに、記念写真の魅力に気づいた。

「考古学の写真でやりたかったのは自分の作品を永遠に残すこと。しかし結婚式の写真でも、その家族の歴史の中で生き続けるんです。しかもお客さまが喜んでくれる。凄くやりがいがある仕事だって気づいたんです」

ザ・リッツ・カールトン東京と業務委託契約するも…

 そこから迷いはなかった。結婚式場での仕事に邁進し、20代後半には「その人たちらしい写真を撮りたい」と、集合写真で“イエーイ!”などの掛け声とともにポーズを取ったり、万歳拍手して新郎新婦を祝福したりという当時としては斬新な撮影方法を取り入れて評判になった。「サトミイズム」と称され、業界誌に取り上げられたことも。

 また、2007年のザ・リッツ・カールトン東京の開業時には、並み居る大手写真館を差し置き、所属する写真館が業務委託契約を結んだ。そのコンペでプレゼンテーションしたのがこの人だ。

「私は“良いカメラマンは良い営業マン”だと思っています。なぜなら“自分ならこう撮る”とカメラマン自身が説明するほど説得力のある営業トークはないからです。リッツ・カールトンの時も私以外は普通の営業マン。説得力なら絶対に負けないと自信がありました。実際、後からホテルの担当者に“(所属している)会社は知らなかったけど、里見さんが良かったから採用した”と言われました」

 本人いわく「サラリーマン時代の最高の成功体験」。しかし、当時最高級といわれたホテルの仕事を勝ち取って完全に天狗になった。

「サトミイズムを知らしめてやる」

 意気揚々と最初の客との打ち合わせに挑んだが、その伸びた鼻は見事にへし折られた。

「いつもはウケるトークがことごとく滑りまくりまして……リッツ・カールトンのような一流ホテルで式を挙げるアッパー層のお客さまには、上っ面な言葉など通用しなかったんですね。しまいには“で、おたくは何をしたいの?”と鼻であしらわれ、完全に自信を喪失しました」

 その一件で、ガタガタと音を立てて気持ちが落ち込んでいったという。ホテル開業から半年も経たないうちに、所属する写真館を衝動的に辞めてしまう。

 まさに天国から地獄であった。

「腕のいいカメラマンを探している」と電話が

 名だたる高級ホテルの写真室と契約を結ぶ、日本随一のウエディングフォト会社だ。このコロナ禍に結婚式運営事業にも参入。契約する高級ホテルを活用した小規模でありながらぜいたくなフォトウエディングプラン「ふたリッチ婚」が評判だ。

 そのトップは横浜の老舗写真館で修業を積み、20代後半には斬新な手法が「サトミイズム」と称されるなど、業界で知らない者がいないほどの存在に。30代半ばにはザ・リッツ・カールトン東京の写真室の契約を勝ち取るなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。しかし高級ホテルの目の肥えた客に全く歯が立たず、自信を喪失して会社を辞めてしまう。

「もちろん撮った写真にクレームがあったわけではないですよ。でもお客さまは満足していなかったと思います。なぜなら撮ってる僕が、お客さまが何を求めているか分からなかったから」

 いつか所属する写真館の社長になろうと考えていたという。衝動的に辞めたはいいが、先々のことは何も考えていなかった。しかし噂を聞きつけた同業仲間から「うちの写真室に来てよ」「ちょっと仕事をお願いしたいんだけど」など引き合いが多数。こんな自分でも買ってくれる人がいる――その事実に大いに勇気づけられた。

「よし会社を立ち上げよう」

 立ち直ると2008年4月、今の会社「サトミノワール」を設立。早々に友人から電話が来た。「新宿のパークハイアット東京が腕のいいカメラマンを探している」と。

「当時、パークハイアットの写真室といえばウエディングフォトカメラマンの憧れ。自分も会社をつくったらいつの日か契約したいと思っていたので、これはチャンスだと思いました」 

 しかも、訪ねてみるとそれまでの実績だけでほとんど話がまとまっていた。後は契約書に判を押すだけ。まさに幸先良い再スタートだった。

「決意」を写真に!これで仕事が拡大

 しかし、リッツ・カールトンで挫折した時と何ら状況は変わっていない。案の定、パークハイアットでも客の反応はいまいちだった。また同じ失敗を繰り返すのか――追い詰められたその時、ふと「自分は何のために写真を撮っているのか」と自問する。考古学の写真から始まり、結婚式の写真へ。共通するのは写真で“時間”を止めること。

「じゃあ自分は結婚式の何の時間を止めたいんだ? それは“決意”だと思い至りました。愛情とか信頼とか感謝とか、そうした気持ちを全部ひっくるめて幸せになるぞという2人の決意を、写真で残すことが自分の仕事なんだと」

 ようやく仕事の本質に気づいた。結婚する2人の「決意」を写真に収めるために何をしたかというと、それはカメラマンを2人体制にすること。1人はその場を客観的に、もう1人は新郎新婦の目に映るものを撮影するためだ。

「あとでアルバムをめくった時に、そこに自分たちが見たことが映っていた方が、その時の決意を思い出せるんじゃないかと。つまり新郎新婦の記憶を写真で記録しようと思ったんです」

 カメラマン2人体制の撮影は、新郎新婦だけでなく業界内でも話題に。シャングリ・ラホテル東京、東京ステーションホテルなど有名ホテルの仕事が次々と決まっていった。

「このように多くのラグジュアリーホテルとオフィシャル契約している会社は他に数えるほどしかなく、日本トップ5に入るポジションを確立したと言えます」

 このコロナ禍でも歩み続ける。確かに前年度に比べ6割も仕事が減ったが、「変化のための良い機会」ととらえ、前記の「ふたリッチ婚」や、結婚式を起点に家族のライフログをクラウド上に記録できるサービス「eMariage」など、斬新な事業に挑戦している。

「共通するのは新郎新婦の“その先の人生を照らし続ける光でありたい”という願い。それを企業理念として、これからも励んでいきます」

(取材・文=いからしひろき)

▽里見憲智(さとみ・のりとも)1972年、石川県生まれ。大学で専攻した考古学がきっかけとなり、写真家になることを夢見る。94年、横浜の老舗写真館に入社。主にホテル結婚式場での記念写真撮影に従事する。2008年に独立し、「Satomi Noir(サトミノワール)」を設立。首都圏のラグジュアリーホテルのオフィシャル写真パートナーとして、高いブランド力を誇る。20年、結婚式運営事業に進出。高級ホテルでの思い出に残る結婚式「ふたリッチ婚」プロジェクトをスタートさせた。

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