「夢グループ」社長自ら出演の“ゆる~い通販CM” 制作費1本2万円でも商品大ヒットのワケ(前編)
「19歳から商売を始めて、自分より年下からお金をもらうことは恐喝だと思っていましたから、当然、年上のかたたちから買っていただく。その延長でずっと来ているだけです」
こう話すのは、「週刊さんまとマツコ」(TBS系)でも話題の通販会社「夢グループ」の石田重廣社長(63)。福島なまりの石田社長と、自社所属の歌手でアシスタントの保科有里さんが繰り広げる“ゆるすぎるCМ”でおなじみに。
ネット通販が伸びている時代にアマゾンや楽天に出店せず、テレビCМと新聞広告、折込チラシで、「夢コードレス強力サイクロン(掃除機)」や「スーパージェルクッション」などのオリジナル商品が大ヒット。年商は110億円(2018年度)から151億円(2021年度)に成長。
売り上げの9割が電話注文によるもの。当然、お客の大半は高齢者だ。普通のテレビショッピングと何が違うのか?
「世の中の通販会社のほとんどがナレーションで商品を説明するだけで、まるで自動販売機のようでしょ。これだとお客様からの『ありがとう』が聞こえなくなるし、『商売に対して失礼だろう』と僕はずっと思ってました。魚屋が『今日はサンマが特売だよ、脂が乗っているよ』と声をかけるように、売り手が出てきて堂々と説明しているだけなんです」
■ゼロからブランドを作るには自分が出るしかない
驚くのがテレビCМをはじめとする広告宣伝はクリエーター任せにせず、ほぼ自社で制作しているところ。それには深い訳があるという。
「タレントを使わず社長がCМに出るなんて制作費をケチっているといわれます。確かにケチではあるんですが、ダンヒルでもクリスチャン・ディオールでも、ブランドがあるのはうらやましいじゃないですか。何もないところからブランドをつくるには、タレントに頼らず自分が前面に出ること。だから『夢グループ=石田』となって、石田が勧めるんだからいいものだよねと思ってもらえるように、5年ほど前からこのやり方を続けているんです。それに、社名と社長がリンクする会社が非常に少ない。大企業でも指で数えられるくらしかない。こんな小さな会社ですが、そうなりたかったんですね」
「仕事で大切なのは反射神経」
社長自ら出演するようになったのは、30代で大当たりしたシルク製品のチラシがきっかけだった。
「女性モデルを起用する際、モデル料10万円っていわれて高いなぁと思って。女性がメインの商品でしたから、どうせ売れるかわからないんだから、男性モデルは僕がやるよ、ということで茶色のシルクのシャツを着て出たら、もうクレームの嵐でしたね」
CМから醸し出されるゆるい雰囲気は、福島県出身の石田社長の語りによるものだが、またそれがウケているのだ。
「話し方が面白いって言われますけど、ずっとこの話し方なんですから仕方ないんです。英語で話せばもっと流ちょうなのかもしれませんよ」
本人曰く、20代から貿易の仕事でさまざまな国を行き来してきたため、独特の話し方は福島なまりと諸外国の言語がミックスされたものだという。
■時間をかけずにパッとやる
仕事のモットーは、時間をかけないことだ。
「CМの場合、撮影は会社のスタジオ、といっても空いているスペースでやっているだけ。出演は僕と保科さん。編集も自社でやるので、1本あたり10分で作れて制作費は2万円ほど。クリエーターに頼むとお金だけでなく時間もかかる。商品のことを一番よく知っている人がやるのが、安く早く効果的なものが作れるでしょ。CМで表示されるクレジットの書体が古くさいとたびたび言われますが、かっこよさを売りにするのではなく、お客さんにいい商品だと思ってもらえないとCМを流す意味がないですから」
保科さんとの掛け合い(セリフ)も自ら考える。こうしたセリフづくりにも時間をかけない。
「30秒、120秒(のCMのセリフ)であれば、10分でできるんですね。だいたいパッと浮かびますから、わざわざ机に向かって考えたりしません」
外をブラブラしながら思いついたら、便せんに書き留めるようにしているという。
「原稿作りは人によっては1週間かかることもある。1週間で作るところを5分で作れるかどうか。今日ひらめかなかったら、明日作ればいい。5分で書けなければそこで止めればいいわけです、それ以上やっても無駄ですから。だから何かを聞かれたらパッと返事ができないようではダメだと思っているんです。仕事で大切なのはこうした反射神経じゃないかな」
自前主義はより商品を売るためのやり方
自ら広告制作をするよさは、日々の売り上げを見ながら、文言を変えられる点にあるとのこと。
「土日に1週間の出稿予定を決めますが、前週の売り上げが悪かったから、今週のチラシはこの内容に変えようとか、毎日の売上を見て変えています。広告制作の95%を僕がやっている理由はここにあります。1カ月の宣伝費が4億円だったら、1週間に1億円。自分で商売をしているんだから、広告費を使って売れなければ自己責任になる。でも、クリエーターは売れても売れなくても関係ないですし、彼らには本当の数字は見えないわけです。僕たちは自分で売り上げを見ながら、より売れるように変えることができるんです」
広告制作だけでなく在庫管理、商品発注も自ら行っている。自前主義にこだわるのは、自分こそが商品のよさを最もわかっていて、それをよりよく伝えられるから、という至極まっとうな理由だった。
売り方にこだわる一方、まったくこだわっていないというのが商品開発。だが、オリジナル商品の開発にも、同社の強さの秘密が隠されている。(=後編につづく)