「第二の松山」発掘は困難 日本ゴルフ界が抱える3つの課題

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 1974年大会から毎年マスターズ会場に足を運び、長年取材してきたゴルフジャーナリストが三田村昌鳳氏だ。

 コロナ禍による取材規制で2020年、21年大会は現地に行けなかったが、松山英樹(29)の日本人初優勝をこう振り返る。

「マスターズの表彰式は特別な舞台。長く日本人が勝ったらどんなスピーチをするのだろう、どういう風景になるのだろうとずっと考えていた。ついに来たか、とちょっとカタルシスを感じた」

 ただ、「今のままでは第二の松山は出てこない」と警鐘を鳴らす。

■国内に見当たらないコース設計

 まずコースの問題だ。

 会場のオーガスタ・ナショナルGCは毎年のようにコース改造が行われて距離が延びているが、アーメンコーナーの12番パー3はショートアイアンで狙える距離にもかかわらず、世界のトッププロがパーセーブどころか大叩きもする。米ツアーで飛距離トップのB.デシャンボーが今年、5オーバーの46位タイに終わったことでもわかるように、決して飛ばし屋が有利なコースでもない。

 プロがパーセーブに四苦八苦するホールはわが国ツアー会場には見当たらない。もちろん「鏡のような」と形容される高速グリーンも国内大会にはなく、飛ばし屋が好スコアを出しやすい設定がほとんどだ。

「プロが戦ううえで求められる技術が日本とメジャーでは違う。メジャーで必要な技術がなくても国内なら勝ててしまう。例えばアプローチひとつとってもメジャーはいろんな種類が必要になる。松山は大会3日目に練習したこともない18番グリーン奥の左足下がりのライから、3クッション、4クッションを入れてピンそば60センチという絶妙なアプローチを見せた。エッジからピンが近い下り傾斜であり、雨が降った後で、パトロンが踏みつけた芝もある。テレビ解説の中嶋常幸プロが『2メートル以内につけたら完璧』と言ったが、メジャーは2メートルでは完璧じゃない。どうすれば止まるか、要求される技術のレベルがまったく違う。それは日本では経験できない」

 高速グリーンも日本ツアーでは選手からすぐに文句が出る。通常営業のゴルフ場でトーナメントが開催されるわが国では、大会後を考慮すれば高速グリーンに仕上げることは難しい。

「日本にも素晴らしいコースはある。しかしギャラリーを入れて、駐車場や観客輸送、スタンドやトイレの設置だけで億近い莫大な費用がかかる。そのうえ試合を見せるための付帯設備まで考えたら日本にはメジャーのような舞台づくりは難しい。日本ではトーナメント開催に1試合4億、5億円かかる。いっぽうマスターズは1週間で200億円の収益がある。国内トーナメント会場には課題がたくさんある」

ジュニア対応は各団体バラバラ

 ジュニア育成にも問題がある。松山は全国的強豪の私立中学・高校のゴルフ部に入り頭角を現し、東北福祉大に進学してさらに強くなった。日本ゴルフ界は、才能に恵まれたゴルファーの出現を待っているだけだ。

 それでは“第二の松山”を発掘するのも困難だ。

「日本でジュニア育成をまったくやっていないか、といえばそうではない。日本ゴルフ協会、日本プロゴルフ協会、日本ゴルフツアー機構、日本女子プロゴルフ協会がやっている。しかし、それぞれがバラバラで統一感もなく、ビジョンもない。日本は高校や大学のゴルフ部に入って、頑張って好成績を出していくしかないというのが現状です」

 唯一、頼みの綱は金谷拓実中島啓太を輩出しているナショナルチームだが、米国では全米ジュニアゴルフ協会があり、年間に多くのジュニアを対象にした試合が行われている。低年齢のうちから有望ジュニアを発掘し、育てるシステムがわが国にはないのだ。

 松山のマスターズ優勝は新たにチームに加わったコーチの存在が大きい。

「松山は悩みや考えを内に詰め込むタイプだった。それがコーチをつけることで外に放出できるようになった。取り組んでいるプロセスがいい方向に向かっているか、間違っていないかという道しるべをコーチと確認できる。内にためた悲壮感を吐き出し、身軽になってプレーにも躍動感が生まれメジャー優勝につながったといえる」

■全面サポートするコーチの役目

 日本にもプロを指導する多くのコーチがいるが、メジャー優勝に導いたのは渋野日向子の青木翔コーチと松山の目沢秀憲コーチの2人しかいない。

「日本ではコーチの役目が技術だけに特化しすぎている。マネジメントやメンタル面までケアする契約は見当たらない。一方、米国では試合会場でも『スイングどうなっている?』と見てもらえるコーチがいて、15分いくらという時間契約もある。年契約、月契約とさまざまなコーチ形態があり、日本みたいな師弟関係はなく、プロもコーチも対等という考えが浸透している」

 コーチひとつとっても日本は世界に大きく遅れており、せっかくの逸材も花開かずに終わってしまうケースがあっても不思議ではないのだ。

「松山はマスターズに勝つまで2011年の初出場から10年かかった。トーナメント会場ではいつも最後まで残り、練習量もトレーニングも半端ではない。それもメジャーに勝ちたいという目標設定が明確だったからです。志の問題であり、日本のプロも世界で戦いたいという強い意志を持たなければいけない。国内ツアーに専念して、スポット参戦ではメジャーに勝つための準備は整わない。頑張って米ツアーに行くしかないのです」

 松山のマスターズ優勝をエポックメーキングで終わらせてしまうのか、“第二の松山”を発掘できるのか――選手の意識はもちろん、その環境を整える日本ゴルフ界の責任は重大である。(おわり)

【連載】マスターズ制覇 松山英樹「現在・過去・未来」

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