日本は「2030年札幌五輪」を開催するつもりか “負の大会”北京五輪をも利用した欺瞞の招致

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 選手の活躍が隅に追いやられ、疑惑と不祥事が噴出した大会だった。

■ドーピング、規定違反、疑惑の採点…メチャクチャだった北京五輪

 20日に閉幕した北京冬季五輪。日本は、金を含むメダル4個を獲得したスピードスケートの高木美帆、ノーマルヒル金に続いてラージヒルでも銀に輝いたスキージャンプの小林陵侑、初の決勝進出で銀メダルのカーリング女子など競技で盛り上がった一方、世界的に注目が集まったのは盤外の騒動だ。

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 フィギュアスケートのワリエワのドーピング疑惑に始まり、スキージャンプ混合団体では高梨沙羅がスーツの規定違反。スノーボードでは平野歩夢の不可解ジャッジが話題となり、硬い人工雪ではケガ人も続出した。さらに開催国である中国びいきのジャッジや、少数民族弾圧の人権問題も絡み、肝心の選手は「脇役扱い」のありさまだ。

 IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長は「大成功。選手も満足している」と胸を張ったが、北京市中心部の公園に銅像まで建ててもらったこの人は「カネ儲けしかアタマにない」と世界中から批判されている。「負の大会」として五輪史に刻まれるのは間違いない。

 スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は「これほど政治利用された五輪はない」とこう続ける。

「米中対立を含めた国際社会の思惑が露骨に反映された大会でした。特に中国は単純な国威発揚ではなく、国策の『一帯一路』をアピールする外交の場として利用していた。米国や日本の外交的ボイコットもインチキそのもの。選手は派遣するが『中国開催だから』と政府の人間は出さない。これも政治利用です。東西冷戦中だった1980年のモスクワ五輪でのボイコットは選手すら派遣しなかった。では、今回の外交ボイコットは一体何の意味があったのか。それらを多くのメディアは検証しようともせず、『日本過去最多のメダル数』と大ハシャギ。あまつさえ、政府や札幌市はこの熱を札幌五輪招致にも利用しようとしている」

視聴者数史上ワースト

 札幌市は2030年冬季五輪の招致を目指している。昨年11月に同市が公表した開催経費の総額は2800億~3000億円に上る。昨年の東京五輪の決算すらまだ終わっていないのに、またぞろ大金をかけて今や価値も権威も失墜した五輪をやろうとしている。道民1万7500人を対象にした意向調査のアンケートの実施を今年3月に設定したのは、北京五輪熱が冷めない頃合いを見計らったのだろう。19日に発表した毎日新聞の世論調査によると、30年札幌五輪について賛成45%で反対34%を上回ったが……。

「東京五輪の決算が出るのは今年6月ごろといわれ、札幌市はその結果を非常に恐れているそうです。ただ、30年冬季五輪の開催地は札幌が濃厚であることは変わりない。北京五輪の最中、バッハ会長は『サッポロはいいじゃないか』と周囲に示唆していたという話もある」

 とは前出の谷口氏だ。

 国士舘大学非常勤講師でスポーツライターの津田俊樹氏は「コロナ禍でも強行した東京五輪から続く一連の騒動でIOCのひどさを思い知ったはずなのに、また招致とは呆れるばかりです」とこう続ける。

「18年平昌、20年東京、22年北京と、ただでさえ東アジアの五輪開催が続いている中、30年札幌ですからね。特定地域に偏ることは本来の五輪の意義から大きく外れている。結局、他に立候補する都市がないからです。特に冬季スポーツは欧米が本場ですが、五輪招致となると市民や国民の反発が大きい。一方、日本は北海道出身の橋本聖子参議院議員を旗振り役に、招致活動にいそしんでいる。東京五輪招致もそうだったように、メディアも五輪キャンペーンで賛成ムードをつくるでしょう。日本人は世界で一番、五輪が大好きですから、東京五輪の二の舞いとなりかねない」

 しかも、今後の五輪は大きく変わる可能性があると、津田氏は指摘する。

■北京は平昌の約40%減

「五輪の放映権は米国の放送局NBCが巨額の費用で購入(14~32年の10大会で約1兆3700億円)。しかし、肝心の視聴者数は惨敗続きです。北米のプライムタイム(午後8~11時、休日は午後7~11時)における五輪の視聴者数は平昌五輪が過去最低といわれていたが、ロイター通信によると今回の北京は平昌の約40%減。数字の取れる男子フィギュアを午前中に行うなど、人気競技をプライムタイムに合わせてもこの結果ですからね」

 IOCが公表している資料によると、13~16年度の総収入約57億ドル(約6530億円)のうち、約7割の41.6億ドル(約4770億円)が放映権料。NBCはその放映権料の半分をIOCに支払っている。つまり、NBCはIOCの収入の35%を賄っている超大口スポンサーなのだ。

■NBCはさらに強気の要求を…

「NBCにとっては費用対効果があまりにも悪すぎる商売となっている。これは放送業界に限った話ではなく、近年は次々にスポンサーが逃げ出しています。マクドナルドとバドワイザーは17年に五輪公式スポンサーから撤退した。NBCが契約途中で降りるとは思えませんが、こうなるとさらに自分たちが有利になるよう、IOCに強気の要求をするでしょう。当然、IOCは断れない。現在は84年ロス五輪から始まった『商業五輪』の流れが続いている。その是非はともかくとして、今回の北京五輪は商業五輪からまた新しい何かに変わる分岐点になりかねない。そんな難しい時期に、対応力に欠ける日本が五輪を招致するのは無謀も無謀です」(津田氏)

既存施設再利用の欺瞞

 前出の谷口氏は「札幌の招致活動は欺瞞に満ちている」とこう続ける。

「ボブスレーやリュージュなどのそり競技は、98年長野五輪で造られた競技場『スパイラル』を再利用する、とある。一見、既存会場を使うことで費用は安く抑えられるように思えるが、とんでもない。スパイラルは老朽化が進み、とてもあのままでは使えない。維持費に年間1億円以上かかり、かといって解体するにしても十数億円かかるので、17年度を最後に休止しています。そもそも72年札幌五輪は山を切り開いてコースを造るなど、自然破壊が問題になった。アルペンスキーの滑降コースとなった千歳市の恵庭岳はボロボロになり、今でも完全に自然が回復したとは言えません」

■すでに1兆600億円を使用

 五輪には国の税金がふんだんに投入される。東京五輪における国の支出は当初約2880億円の予定だったが、開催経費とは別に「開催関連経費」として19年の時点で総額1兆600億円がすでに使用されていたと、会計検査院が報告している。

「近代五輪の父といわれるクーベルタン男爵は冬季五輪に反対し、当初は北欧のノルウェーも『スキーは自然の中で発展したスポーツ。近代五輪にはそぐわない』と反対していた。それが無駄に山を切り開き、今では人工雪まで降らせる始末。そういえば、北海道新幹線は30年度末に開業予定。札幌駅周辺の再開発も決まっているそうです。これと五輪招致が無関係と誰が思うでしょうか」(谷口氏)

 一刻も早く、日本は五輪から手を引くべきだ。

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