競馬評論家・須田鷹雄さんが読む今後の種牡馬レース「キタサンブラック1強状態にはならない。3頭がライバル」
須田鷹雄(競馬評論家)
3歳馬の頂点を決めるGⅠダービーは、今後の種牡馬の覇権を占うレースでもある。上位人気を形成する皐月賞組の父は①着から③着までそれぞれリオンディーズ、キタサンブラック、ドゥラメンテで、種付け料ではキタサンが2000万円でダントツ。日曜日の結果を受けて、キタサン人気がさらに勢いづくのか、ほかの種馬に追い風が吹くのか。今後の種牡馬レースについて詳しく聞いた。
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──キタサンブラックはGⅠ7勝の実績で2018年から種付けしています。当初は種付け料500万円、種付け頭数130頭で、19年はそれぞれ400万円、110頭に落ちたように、種牡馬として人気がありませんでした。
キタサンブラックは、菊花賞が初めてのGⅠ勝利で、2度目の天皇賞・春を勝ったときはレコードだったように長距離に実績があります。いまの日本競馬はマイルから二千までが中心ですから、種牡馬入り当初はその長距離適性が嫌われたのです。一方、父ブラックタイドは、ディープインパクトの全兄ですが、成績は弟に及びません。さらに母父サクラバクシンオーの血もあって、元々の血統的な評価は高くありませんでした。それほどでもない血統と思われていた馬が競走成績を残して種牡馬になっても、その評価は高くなりにくい傾向で、ちょっと古いですが、オグリキャップはその典型です。
■ブラックタイド譲りの馬格のよさ
──風向きを変えたのが初年度産駒の1頭イクイノックスの大活躍で、2世代目のソールオリエンスは皐月賞馬になっています。その後も重賞を勝つ馬が相次ぎ、ダービーの有力候補の1頭クロワデュノールもキタサン産駒で2歳時にGⅠホープフルSを勝ちました。いまではキタサン産駒のポテンシャルの高さが評価されています。
そこを読み解くヒントが、キタサンブラックの馬格のよさと成長力、そしてスピードです。デビュー時の馬体重が510キロと雄大なのは、ブラックタイド(競走時代は488キロでデビューし、最高体重508キロ)の馬格のよさが受け継がれています。それでいてストライドが大きく、動きに重苦しさがない。引退時は540キロとさらに30キロ増えています。馬っぷりのよさと成長力の高さを示したのがイクイノックスであり、ウィルソンテソーロでしょう。イクイノックスは3歳秋から4歳にかけて成長してGⅠ6連勝。ウィルソンテソーロはデビューした芝で勝てず、ダートで成功。JBCクラシックを制覇したのは5歳です。キタサンブラック産駒は、イクイノックスにみられるように、サクラバクシンオー譲りのスピードもありますから、結果として日本のスピード競馬にマッチしたということです。
──思い返せば、ブラックタイドとディープインパクトを比べると、デビュー前の評価は全兄の方が高かったですよね。
そこです。その評価の根本がブラックタイドの馬格のよさで、ディープインパクト(競走時代は452キロでデビューし、438キロで引退)は小ぶりな体が低評価のゆえんでした。そんな2頭が種牡馬となると、それぞれの産駒の中から、父の特徴を受け継ぐ後継馬がしっかりと誕生したことは、面白いですね。