競馬評論家・須田鷹雄さんが読む今後の種牡馬レース「キタサンブラック1強状態にはならない。3頭がライバル」
「コントレイルの初年度産駒も期待できます」
──ディープインパクトからは、3冠馬コントレイルが誕生しました。父と同じようにコンパクトな馬体から、「今は亡きディープの再来」といわれて種牡馬入りしました。種付け料は初年度の1200万円から今年は1800万円に上がっています。
キタサンブラックとコントレイルが、まさにブラックタイドとディープインパクトの特徴を受け継ぐ2頭です。キタサンブラックはすでに種牡馬として結果を残していますが、コントレイルも初年度産駒がいよいよ今年デビューします。北海道で取材した感触だと、祖父から続くコンパクトな馬体の産駒が比較的多いですが、生産者の評判はよく、初年度から期待が持てそうです。
──コントレイルがキタサンのライバルになるにはもう少し時間がかかります。現時点でのライバルというと、種付け料が2000万円で並ぶキズナですか。
そうですね。ほかに1500万円のスワーヴリチャード、そして1200万円のエピファネイアでしょう。この3頭は順調にGⅠ馬や重賞戦線をにぎわす馬を輩出していますから、キタサンブラックのライバルとして、今後もしのぎを削ることになります。
──同じく2000万円のイクイノックスは?
種牡馬入り初年度から2000万円はかなり強気な設定です。ディープインパクトでさえ、初年度は1200万円で、2000万円到達は8年目でした。ノーザンファームを中心とした大手生産牧場は有力な繁殖牝馬をそろえて種付けをバックアップしますから、そこでキタサンブラックと同じような結果を残せるかどうかが注目です。ただ、資金力のない中小牧場は手を出しにくい金額でありながら、初年度産駒のデビューは2年後とまだデータがありません。そういう牧場がキタサンブラック系の血を求めるなら、すでに結果が出ているキタサンブラックの種付けを希望するのではないでしょうか。
■「生産者の配合力がより試される時代」
──キタサンブラックを中心として、キズナとスワーヴリチャード、エピファネイアがライバル集団を形成する状態が続くのでしょうか。
当面はその構図だと思います。少なくともサンデーサイレンスが全盛期のときのような1強状態になることはないでしょう。
──確かに日本も欧州も種牡馬1強状態による血の濃さから、海外の種牡馬や繁殖牝馬を導入して血の分散化を図ったことで、いろいろな種牡馬が活躍するようになっています。
桜花賞馬はアドマイヤマーズ産駒のエンブロイダリーで、皐月賞馬はリオンディーズを父に持つミュージアムマイルでした。ダービーでは、サートゥルナーリア産駒のファンダムとショウヘイも皐月賞組に続いて人気を集めそうです。皐月賞③着だったマスカレードボールを送り出したドゥラメンテは亡くなっていますが、ダービーに出走する18頭の父は、やっぱりキタサンブラックやキズナなどを中心にしながらも幅広い顔ぶれです。生産者的視点でいえば、芝もダートもこれまでにないような種牡馬ラインアップですから、生産者の配合力がより試される時代といえるかもしれません。その点からも楽しみなダービーですし、これから種牡馬の勢力図がどう変わっていくか注目です。
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ダービーが終わると、来週から来年のダービーに向けた2歳新馬戦が始まる。競馬ファンの興味は尽きない。
(聞き手=清水美行/日刊ゲンダイ)
▽須田鷹雄(すだ・たかお) 1970年、東京生まれ。東大経済学部在学中は馬術部で活動する一方、別冊宝島「競馬ダントツ読本」などで執筆。卒業後、JR東日本勤務を経て96年からフリー。2000年版から続く「POGの達人」(光文社ムック)はじめ著書多数。