「わざと後逸してくれ」…江川卓は球宴の3イニングで“10奪三振”を狙って私に耳打ちした
中尾孝義氏による「革命捕手が見たプロ野球」(第1回=2022年)を再公開
日刊ゲンダイではこれまで、多くの球界OB、関係者による回顧録や交遊録を連載してきた。
当事者として直接接してきたからこそ語れる、あの大物選手、有名選手の知られざる素顔や人となり。当時の空気感や人間関係が、ありありと浮かび上がる。
今回はあの江川卓氏について綴られた、中尾孝義氏による「革命捕手が見たプロ野球」(第1回=2022年)を再公開。年齢、肩書などは当時のまま。
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「ワンバウンドのカーブで三振を取るから、中尾ちゃんはうまい具合に後ろにそらしてくれ。ワイルドピッチでも記録は三振。そうすれば10個の三振が取れるだろ?」
ロサンゼルス五輪が開催された1984年7月24日。熱帯夜のナゴヤ球場で行われたオールスター第3戦で、江川卓(巨人)が息をのむような投球を見せていた。中日の捕手だった私は、地元での試合ということで、先発マスクをかぶっていた。
球宴で登板する投手には「最長で3イニングまでしか投げられない」という規定がある。どんなに好投を続けても、3回を投げ終えたら降板しなければならない。江夏豊さん(阪神)は71年の球宴第1戦に先発し、打者9人から全て三振を奪った。これは破りようのない記録のはずだった。