「わざと後逸してくれ」…江川卓は球宴の3イニングで“10奪三振”を狙って私に耳打ちした
そこで当時29歳、私と同学年の江川である。シーズンの前半は右肩の痛みに悩まされていたというが、この日は直球、変化球とも切れ味は抜群。セ・リーグの先発・郭源治(中日)の後を受け、四回から2番手で登板。まず福本豊さん(阪急)を直球で見逃し三振、続く簑田浩二さん(阪急)をカーブ、ブーマー(阪急)からストレートで空振り三振を奪った。続く五回は栗橋茂さん(近鉄)をカーブ、落合博満さん(ロッテ)をストレート、石毛宏典(西武)をカーブで3者連続空振り三振。6連続三振でベンチに戻ると、全セの王貞治監督は予定の2イニングからの延長を決めた。江川は「もういいっすよ」と口走ったが、衣笠祥雄さんと山本浩二さんの広島重鎮コンビがゲキを飛ばした。
「ここで行かな、いつ行くんじゃ!」
「そうじゃ! あと1回行かんかい!」
そうして続く六回のマウンドに上がることが決まると、江川がベンチで私に耳打ちをしてきたのが、冒頭のセリフだった。
六回は伊東勤(西武)をカーブで空振り三振、さらに代打・クルーズ(日本ハム)にはこの日最速となる147キロの直球で空振り三振。江夏さんの9者連続三振のタイ記録にリーチをかけた。