「わざと後逸してくれ」…江川卓は球宴の3イニングで“10奪三振”を狙って私に耳打ちした
迎えた9人目の打者は、しぶとい打撃、バットに当てることに定評がある大石大二郎(近鉄)。江川はストレート2球で、あっという間に2ストライクに追い込んだ。タイ記録まであと1球。すると、江川は私が出したサインに打ち合わせ通りに首を振り、外角へのカーブを選択。少し高く入ったことで、大石の必死に投げ出すように食らいついたバットに当たり、結果は二ゴロ。快挙はならなかった。
浮き上がるような剛速球が最大の武器なのに、なぜカーブだったのかが議論の的となった。江川は後年、テレビ番組で「10連続奪三振を狙っていたから、大石が三振振り逃げになるように“捕手が捕れないぐらい”の外角カーブを投げるつもりだったが、ストライクになってしまった」と証言していたが、少し違う。
私が故意に後逸するところまで話し合っていたからだ。直球をそらすのは不自然だし、ワンバウンドのカーブなら後逸しても自然に見える。あとボール2個分、低くきていれば、もくろみ通りになっていたに違いない。江川はベンチで「しょうがないな」とあっけらかんとしていた。それにしても「後逸しろ」とは、江川らしいというかなんと言うか……。