「笹の舟で海をわたる」角田光代著

公開日: 更新日:

 朝鮮戦争の好景気に活気づく東京・銀座のデパートで、勤め帰りの左織は、同年代の見知らぬ若い女性に声をかけられる。風美子と名乗る女性は、戦時中、いじめが横行した学童疎開先で、左織に優しくしてもらったのだという。だが、少女時代の過酷な記憶を心の奥にしまい込んでいた左織は、思い出すことができない。

 それでも、この偶然の出会いをきっかけに2人は親しくなり、ついに義理の姉妹になる。左織の夫の実弟と風美子が結婚したのだ。

 疎開体験を共有する2人だが、戦後は全く違う人生を歩むことになる。

 左織は2人の子を持つ専業主婦。戦争で家族を全て失った風美子は自分の力で這い上がり、料理研究家として脚光を浴びる。保守的で自分の意見を持たない左織には、風美子の生き方がまぶしい。自分の家庭に深く入り込み、反抗的な娘が自分より風美子になついていることに嫉妬を覚える。最初の出会いは本当に偶然だったのか?左織は疑念をぬぐいきれない。

 2人の女の戦後が、左織の心理的な恐怖をスパイスに描かれる。少女が初老になるまでの50年の物語は、思い出したくない過去を葬り、豊かさに向かって突っ走った戦後日本の姿を鮮やかに映し出している。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神・梅野がFA流出危機!チーム内外で波紋呼ぶ起用法…優勝M点灯も“蟻の一穴”になりかねないモチベーション低下

  2. 2

    梅野隆太郎は崖っぷち…阪神顧問・岡田彰布氏が指摘した「坂本誠志郎で捕手一本化」の裏側

  3. 3

    「高市早苗首相」誕生睨み復権狙い…旧安倍派幹部“オレがオレが”の露出増で主導権争いの醜悪

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    国民民主党「選挙違反疑惑」女性議員“首切り”カウントダウン…玉木代表ようやく「厳正処分」言及

  1. 6

    時効だから言うが…巨人は俺への「必ず1、2位で指名する」の“確約”を反故にした

  2. 7

    パナソニックHDが1万人削減へ…営業利益18%増4265億円の黒字でもリストラ急ぐ理由

  3. 8

    ドジャース大谷翔平が3年連続本塁打王と引き換えに更新しそうな「自己ワースト記録」

  4. 9

    デマと誹謗中傷で混乱続く兵庫県政…記者が斎藤元彦県知事に「職員、県議が萎縮」と異例の訴え

  5. 10

    阪神に「ポスティングで戦力外」の好循環…藤浪晋太郎&青柳晃洋が他球団流出も波風立たず