【アジアの海洋権力】 竹島問題に中国の軍事台頭、そしてもつれる沖縄基地問題……。アジアの権力地図を見る新しい視座。
「南シナ海」ビル・ヘイトン著、安原和見訳
南シナ海。南沙諸島に中国が人工島を造成し、対抗して「航行の自由」を唱える米国が12カイリ洋上に駆逐艦を派遣するなど緊張が高まった話題の海域だ。本書はこの南シナ海を古代にさかのぼり、ここをめぐってさまざまな勢力や国家の権力がいかにぶつかり合ってきたか、その歴史を描くノンフィクション。
東は台湾とフィリピン、南はマレーシア、西がベトナムで北は中国。この間に横たわる南シナ海は人類最古の文明のひとつである東南アジアの民が、海や川伝いに移動しながら漁労や採集、交易などで暮らす「海の遊牧民」的な文明空間であったという。彼らは陸地の国境など無視し、風と潮流を生かす独自の移動生活を送っていた。重要なのは「領土」(面)ではなく「航路」(ルート)だったのだ。しかし西洋的な産業革命と植民地主義の進出とともに海にまで「国境」を設ける発想が強化され、今日の騒動にまで至る。
尖閣諸島など日本の海域(領土)問題にも貴重な示唆となる事実や知見が豊富。歴史ぎらいにも面白く読ませる腕はBBCで長年鍛えたという著者ならではか。(河出書房新社 2900円+税)
「これからの琉球はどうあるべきか」藤原書店編集部編
「戦後70年」を機に版元の社長の熱意で実現した「琉球の八賢人」の座談会記録。最年長の大田昌秀元沖縄県知事が米国で調査したところ、真珠湾攻撃のわずか半年後には沖縄を日本から切り離し、アジアの安全保障の拠点とすることを構想していた事実が判明したという。米国は早くから東アジア海域における沖縄の利用価値を認めていたのだ。
他方、日本軍は沖縄の民間人を捨て石として利用しながら自分たちだけ女に化けて脱出を試みるなど卑劣ぶりをさらしていた。日・米のはざまで翻弄されてきた沖縄。アジアの権力闘争の縮図を見る思いだ。(藤原書店 2800円+税)
「東アジアに平和の海を」前田朗、木村三浩編著
「戦争犯罪論」を専門とする左派の法学者と右翼結社「一水会」代表の論客。真っ向から対立する二者が共同編者となり、左右両派の論客を招いて議論する。ヘイトスピーチが跋扈(ばっこ)する現在、むしろ時流にさからうように理詰めで討論し、ともに「平和の海」をわたろうという当節珍しい座談集だ。
現代の日・中・韓問題の根っこにあるのは対米関係。日本植民地主義さえ黒船以来の米帝国主義との関わりを起点としている。ところがいまだ「左右対立」の図式にすべてを押し込めるため、噴き出した矛盾が、結局罵倒の応酬へとつながってしまう。領土問題であれ慰安婦問題であれ、本書でも結論は出ない。それほどもつれた課題だけに「棘(とげ)を抜く」地道な努力が必要だと呼びかけるのである。(彩流社 2200円+税)