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北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「翻訳出版編集後記」常盤新平著

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 常盤新平は1987年に「遠いアメリカ」で直木賞を受賞した作家で、2013年に亡くなっているが、若いころは早川書房に勤めた編集者であった。1959年に入社し、その10年後に退社して翻訳家となったが、本書はその早川時代の回顧録である。したがって1960年代の翻訳出版業界が、ここには描かれている。

 この回顧録を書いたのは1970年代の後半で、常盤新平が早川書房を辞めてからまだ10年足らず。記憶が鮮明のうちに書いたと思われるので、ディテールが克明だ。たとえば、パブリッシャーズ・ウィークリー(PW)を船便で取り寄せ、まだ出版されていない本の情報を必死で集めたこと。そのPWに、角川春樹が社長時代の角川書店が「人間の証明」の広告を載せたこと(版権を海外に売るための広告である)。1960年代は翻訳権の争奪戦もなく、穏やかな時代であったこと。探偵小説とSFのアドバンスは、125ドルから150ドルであったこと(1ドルが360円の時代である)。常盤新平が版権を取ったなかでいちばん売れたのは、「ゴッド・ファーザー」であること。そういう興味深いことが次々に出てくる。

 翻訳ミステリーに興味のある人、翻訳出版そのものに関心のある人、そういう方々には必読の書といっていいが、翻訳の師でもあり、会社の先輩でもある福島正実に対するあつい感謝の念が、特に印象深い。(幻戯書房 3400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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