「ミステリーな仏像」本田不二雄著

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「神仏探偵」を自称する著者が、異相・奇相の仏像を紹介しながら、なぜそのようなユニークな仏像が作られ、信仰されたのかを読み解いていく異色ビジュアルブック。

 動かずモノを言わない仏像は、その代わりに「シンボリックなアイテムを備え、さまざまなシグナルを送り、拝するものにメッセージを発信している」。名古屋市・栄国寺の阿弥陀如来半跏像(写真①)も、唇を開きはっきりと歯を見せる(ゆえに「歯仏微笑弥陀如来」とも呼ばれる)など、さまざまな点で従来の如来像とは異なっている。しかし、この仏像のもっとも特筆すべきアイテムは、参拝者からは見えないその胎内にあるという。実はこの仏像、その胎内に色分けされた内臓と骨格の模型(写真②)が納められているのだ。

 京都・清凉寺にも五臓が納められた釈迦如来立像があるが、これは釈迦がこの世に実在し、人の姿形をしたブッダであったからこそ発生した生身仏信仰の結果であって、西方浄土にすむ弥陀が五臓六腑を有するのは理に合わない。

 調べると、かつて胎内に五臓六腑のある阿弥陀如来坐像が京都の誓願寺にもあったことが分かり、その造像の経緯をたどった著者がある仮説を立てると、栄国寺の立地がまさにその仮説と符合する。

 同じく愛知県碧南市の応仁寺に安置されている「五劫思惟阿弥陀仏坐像」(写真③)はひと目見ただけで、夢にでも出てきそうなインパクトだ。

 骨と皮にやせた仏が右ひざを立てて座り、首をかしげるその姿はミイラそのもの。

 この像はかつて応仁寺で盛大に行われていた「蓮如忌」に集まる参拝客をあてこみ賽銭目当てで造像されたものらしいが、真宗王国の富山県にはこうした「やせ仏」が多数残っており、「やせ仏信仰」があったことを知る。

 その他、顔立ちや装飾など、どこから見ても非の打ちどころがない端麗な姿ながら、なぜか正面から拝む者にそっぽを向いて立つ群馬県高崎市の萬日堂の阿弥陀如来立像(見返り阿弥陀 写真④)、頭髪(螺髪)部分が異様に盛り上がりアフロヘアさながらの奈良市・五劫院の五劫思惟阿弥陀坐像(写真⑤)、母の右脇から生まれたという釈迦の誕生の瞬間を忠実に再現した石川県金沢市・全性寺の摩耶夫人像、世界三大美人に数えられる小野小町が老醜をさらす京都・東福寺の塔頭・退耕庵に収まる「小野小町百歳像」など120体を紹介。

 仏像に興味はなくとも、次々に現れるそのけたはずれの異相・奇相ぶりに目がクギ付けになってしまうはず。それらを面白おかしく紹介するのではなく、縁起や人々の信仰を読み解きながら、こうした仏像が誕生した背景に迫る「探偵」ならではの仕事ぶりが光るお薦め本。(駒草出版 1500円+税)

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