海の見える図書館が舞台の恋愛物語

公開日: 更新日:

「海の見える街」畑野智美著/講談社文庫 670円+税

【話題】かつての図書館では、専用の検索カードがあり、それを調べた上で目当ての資料を探すというのがふつうだったが、今ではネットによる検索が当たり前。それに伴って、資料整理もデータ化が基本になり、図書館員にもデータ管理のスキルが求められるようになる。そこで司書の資格はなくともパソコンができる派遣社員が来ることも多いという。

 本書はそんな背景のもと、新たに図書館にやってきた派遣社員によって引き起こされる恋愛模様を描いたもの。

【あらすじ】全4章でそれぞれ語り手が変わる。冒頭の「マメルリハ」の語り手の本田は海の見える市立図書館の司書で、10年越しの恋に破れ、傷心をインコのマメちゃんで慰める31歳。そこへ現れたのが派遣でやってきた25歳の春香。本にはまるで興味はなく、ミニスカートにヒールの靴、本は投げるし、言葉も乱暴。気が弱く内向的な本田とはおよそ正反対だが、そんな春香が彼のかたくなな心をほぐしていく。

 続く「ハナビ」は本田の同僚で春香と同い年の日野が語り手。本田に密かに思いを寄せていた日野は、春香と本田のことが気になって仕方がない。言い出せずに悶々としているうちに、彼女の心は本田の同期の松田へと移っていく。

 その松田が語り手になるのが第3話「金魚すくい」。ここで松田は中学生しか好きになれない己の性癖について赤裸々に語る。最後の「肉食うさぎ」は、1年の契約期間が間もなく終わる春香が、今後の生き方と本田への思いを語っていく。
【読みどころ】4人4様、それぞれ屈託を抱えながら、なんとか相手につながりたいという、不器用だが切実な思いがひしひしと伝わってくる。海の見える図書館という舞台ならではのラストシーンが印象的。〈石〉

【連載】文庫で読む 図書館をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

    西武フロントの致命的欠陥…功労者の引き留めベタ、補強すら空振り連発の悲惨

  2. 2
    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

    西武の単独最下位は誰のせい? 若手野手の惨状に「松井監督は二軍で誰を育てた?」の痛烈批判

  3. 3
    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

    巨人・小林誠司の先制決勝適時打を生んだ「死に物狂い」なLINE自撮り動画

  4. 4
    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

    全国紙が全国紙でなくなる?「新聞販売店」倒産急増の背景…発行部数の激減、人手不足も一因に

  5. 5
    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

    花巻東時代は食トレに苦戦、残した弁当を放置してカビだらけにしたことも

  1. 6
    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

    日本ハムは過去2年より期待できそう 新外国人レイエスが見せつけた恐るべきパワー

  2. 7
    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

    大谷はアスリートだった両親の元、「ずいぶんしっかりした顔つき」で産まれてきた

  3. 8
    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

    【中日編】立浪監督が「秘密兵器」に挙げた意外な名前

  4. 9
    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

    WBCの試合後でも大谷が227キロのバーベルを軽々と持ち上げる姿にヌートバーは舌を巻いた

  5. 10
    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗

    裏金自民に大逆風! 衆院3補選の「天王山」島根1区で岸田首相の“サクラ”動員演説は大失敗