行った気分を味わおう!大人の旅本

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「へるん先生の汽車旅行」芦原伸著

 ゴールデンウイークも終盤。人混みを避け、自宅でのんびり過ごした人も多いだろう。そんな人のために、居ながらにして旅行気分が味わえる旅本をご紹介。世界の絶景から懐かしい東京の街、ロードノベルまで未知なる世界の扉を開けるお薦めの5冊だ。

 明治23年8月、ルポライターとして来日したラフカディオ・ハーンは横浜から汽車に乗って松江に向かった。当時は京都まで16時間30分もかかり、運賃も当時の庶民の1カ月の生活費より高かった。ハーンは英語教師として赴任した松江で小泉セツと出会い、日本の怪談を知る。セツの養母は出雲大社の神職の家の養女で、出雲の民話や伝承に詳しかった。ハーンが日本人の精神や宗教を理解したのは、ギリシャという多神教の国に生まれ、アイルランドという妖精の国で育ち、心の多様性を持っていたからではないか。

 各駅停車で当時のハーンの旅を追体験した著者が、ハーンの精神世界を探る文学紀行。

(集英社 600円+税)

「どうしてこうなった!?奇跡の地球絶景」ライフサイエンス著

 ジャワ島東部のイジェン山にある火山湖、イジェン湖は、「死の湖」と呼ばれる。湖水に火山ガスが溶け込んでいて毒性があるためだが、湖面は宝石のように美しいエメラルドグリーンをしている。夜には噴火口から噴出する亜硫酸ガスが燃える青い炎が山肌を滑り落ちる。

 メキシコ・ユカタン半島の付け根には北半球最大規模のサンゴ礁「ベリーズ・バリアリーフ」がある。その中に「ブルーホール」と呼ばれる直径318メートル、深さ125メートルの真っ青な穴があいている。これはかつてここが陸地だった時代にできた鍾乳洞の入り口なのだ。シュールレアリスムの作品か、CGかと疑ってしまう世界の絶景を紹介。(三笠書房 780円+税)

「ぼくの東京全集」小沢信男著

 3月10日の大空襲の2日後、3年生の「ぼくとヤモンは神田に行ってみた。コンクリートの舗装道路だけが残っていて、街角も路地もなかった。平べったくなった町はずいぶん狭く見えた。「国破れて山河あり、か」「城春にして草木深し」「宮城も焼けたそうだな」「主馬寮か、ヘン」 言ってから不敬のおそれがあると気づいてギョッとした。この漢詩は戦争に負けて捕虜になった悲しみをうたったもので、ぼくらはいつのまにか敗戦主義者になってしまった。焼け跡で警防団の人が木の根株のようなものを掘りだして戸板にのせた。「死骸だッ!」(「東京落日譜」)

 さまざまな時代の東京にタイムスリップさせてくれる小説、エッセー、紀行文集。

(筑摩書房 1300円+税)

「遊牧夫婦」近藤雄生著

 ライターとして生きようと考えた著者は、結婚したばかりの妻とあてのない旅に出る。最初に向かったのは、留学中の妻と出会ったオーストラリアだった。野生のイルカがやってくるバンバリーで、ゲストハウスでアルバイトしながら、ボランティアとしてイルカの世話をすることになった。ボランティア仲間の白人女性ペリーは以前、ジンバブエの農場主だった。独裁者のムガベ大統領が白人から農場を取り上げるという政策を推し進めたため、パートナーと子ども2人を連れて移住してきたのだ。著者はペリーに、過酷な日々を乗り越えて身につけた落ち着きと思いやりをみた。

 異文化と出合う夫婦の旅の記録。

(KADOKAWA 920円+税)

「旅猫リポート」有川浩著

 サトルは車にはねられて死にかけていた野良猫を助け、ナナと名づけて飼っていた。子どもの頃飼っていたハチにそっくりだった。5年後、ナナを飼えなくなったサトルは、小学校の同級生だったコースケに預けようとする。

 捨て猫のハチを最初に見つけたのはコースケで、2人でハチをかわいがっていたからだ。

 だが、コースケの心の中ではずいぶん前に死んだハチがまだ生きていると気づき、銀色のワゴンにナナを乗せて別の引き取り手を探す旅に出る。

 中学の同級生、高校の同級生、そして、両親を亡くしたサトルを引き取ってくれた叔母の元へ。それは、サトルの過去の秘密と出合う旅だった。やさしさに満ちたロードノベル。

(講談社 640円+税)

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