北上次郎
著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「空からのぞいた桃太郎」影山徹著

公開日: 更新日:

 絵本である。かなり異色の絵本である。あの有名な桃太郎のお話を変えてしまったわけではない。話はそのままだ。しかし、絵が異色。書名にあるように、すべて俯瞰で(つまり上からの視点で)描いているのだ。空からのぞいた桃太郎、とはそういう意味である。

 これがどういう効果を生むか。おじいさんとおばあさんの住む家が小奇麗であること、畑が広く、しかもきちんと手入れされていること――つまり、かなり広い土地を所有していて、働き者であることが伝わってくる。アップでは分からないことも、ロングで上から描くことで、そういうことが明らかになる。彼らが何も言わずに桃太郎を育てたことには、そういう経済的余裕があったことが推察されるのである。そういう「発見」が随所にあって楽しい。

 本に挟まれている8ページの小冊子を読むと、桃太郎にはおかしな点があることを昔から多くの人に指摘されてきたという。たとえば、桃太郎は宝物を持ち帰るが、その宝物はその後どうしたか。「元の持ち主に返した」と説明するバージョンもあるようだが、「自分たちのものにした」というバージョンも数多くあるようで、福沢諭吉は「桃太郎は盗人だ」と批判したという。

 この絵本は、絵が奇麗で、色づかいも大胆で、さらに構図が新鮮なので、子供が読んでも面白いだろうが、このように大人が読むとこれまで知っていた話がまったく新しい話として蘇ってくる。

 (岩崎書店 1500円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  2. 2
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  3. 3
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

  4. 4
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 5
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  1. 6
    新婚ホヤホヤ真美子夫人を直撃、米国生活の根幹揺るがす「水原夫人」の離脱

    新婚ホヤホヤ真美子夫人を直撃、米国生活の根幹揺るがす「水原夫人」の離脱

  2. 7
    違法賭博に関与なら出場停止どころか「永久追放処分」まである

    違法賭博に関与なら出場停止どころか「永久追放処分」まである

  3. 8
    大谷翔平のパブリックイメージを壊した水原一平通訳の罪…小栗旬ら芸能人との交流にも冷たい視線

    大谷翔平のパブリックイメージを壊した水原一平通訳の罪…小栗旬ら芸能人との交流にも冷たい視線

  4. 9
    小室圭さんが窮地の大谷翔平の“救世主”に? 新通訳&弁護士就任にファンが期待

    小室圭さんが窮地の大谷翔平の“救世主”に? 新通訳&弁護士就任にファンが期待

  5. 10
    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終

    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終