「侵略する豚」青沼陽一郎著
時は幕末、彦根藩では、毎年、水戸藩の元藩主・徳川斉昭宛てに特産の牛肉を贈っていたが、井伊直弼の代になって取りやめた。それが牛肉好きの斉昭の逆鱗に触れ、桜田門外の変の井伊の暗殺につながったという。
また、斉昭の息子・徳川慶喜は「豚一殿」と呼ばれるほどの豚肉好きだった。親子揃っての肉好きという話だが、このエピソードの背後には米国による開国があり、今再びTPPによる関税撤廃という開国が迫られている。
日本の食肉の歴史を桜田門外の変から説き起こす著者は、1960年にアメリカから35頭の豚が空輸され、現在日本国内で飼育されている豚のほとんどがその35頭の遺伝子を受け継いでいることを紹介し、幕末以来の米国の対日本食肉戦略の大きな構図を描き出す。
一方で、習近平による中国の大胆な食料戦略を跡づけた上で、今や日本の胃袋が米中2大国につかまれていることを明らかにしている。
このままでは食料という武器で米中に翻弄されかねないと、強い警鐘を鳴らす。
(小学館 1400円+税)